西日本新聞電子版 1周年記念プレゼント

【人口減少時代と住民力】 武居 丈二さん

武居 丈二(たけい・たけじ)さん=自治大学校客員教授、元自治大学校長
武居 丈二(たけい・たけじ)さん=自治大学校客員教授、元自治大学校長
写真を見る

◆時間と数の価値を創れ

 今年の元日はいつもより長い一日だった。8時59分60秒の閏(うるう)秒があったからだ。一分一秒の時間の重みは、産業経済、研究開発からスポーツの記録、人生の一断面に至るまで、その時その場所で固有の価値を持つ。

 平成27年の救急出動件数は605万件余、搬送人員は547万人余。高齢化の進行や地域社会の変容、医療環境等により年々増加し、出動は5・2秒に1回、搬送は国民23人に1人の計算になる。カーラーの救命曲線では心肺停止後約3分、呼吸停止後約10分で死亡率が50%を超える。

 救急車の現場到達時間は平均8・6分。心肺停止傷病者に対する居合わせた人の応急手当て実施率は5割強。とっさの行為が1カ月後の社会復帰率を2・5倍に高める。瞬間、瞬間の時間の積み重ねの先に安心まちづくりがある。

   ----◆----

 今年の初めに、日本老年学会・日本老年医学会が65歳以上74歳までを准高齢者、75歳以上89歳までを高齢者、90歳以上を超高齢者とする提言を行った。「現在」の定義の生産年齢人口(15~65歳)が今後も減少し続ける中で、国の活力を維持し、将来にわたる安心社会をどう実現していくか。課題は大きく重い。

 人口減少時代の世代間負担は、分子(支えられる世代人口が増大)÷分母(支える世代人口が減少)が深刻化する肩車の図式で語られる。しかし、私たちは誰でも、自らの日常の中に、支えられる側面と支える側面を持つ。将来支える側の要員として期待される出生数も「現在」には対応できない。一方で、個々人が将来に続く「現在」の積み重ねを意識すれば、自分の「支え・支えられる」ポートフォリオ(活動構成)を少々変えることはできる。バリバリの企業エリートも多くのひとに支えられ、ハンディのある人も周囲に感動を与えている。統計上の「1」がそれ以上にも以下にもなる。

   ----◆----

 私は、人口減少時代の地域の「人口」には「三つの視点」が重要だと考える。一つは、10年後20年後の人口減を直視し、真に必要な人財(じんざい)を確保・育成し、縮小の中にも価値を創造していくこと。二つ目は、つながりを意識し、出身者やゆかりの人、観光者等のふるさと人口・交流人口を増やすこと。三つ目は、これが核心なのだが、住民一人ひとりの才能・能力を再発見し、生きがい、やりがいを増やし、住民の基礎数を元気・活力の倍率で大きくすることである。

 わが国の将来の制度設計を国民の合意形成を図りながらどうしていくか、と同時に私たち一人ひとりが地域でどう行動するかが問われている。

 福岡県大牟田市のほっと・安心ネットワークは、小学校区単位で子供も巻き込み、見守り・SOS模擬訓練を行う。認知症になっても安心して住み続けられるまちづくりは全国に通じる価値を持つ。島根県雲南市や山形県川西町吉島の住民自治組織は、小さな単位でビジョンを共有し、個々の取り組みの積み重ねで「支え」「支えられる」の意識を超えた永続する地域経営を目指す。これからは利益や価値の取り合いとは違う、新たな創造の視点が不可欠だ。

 国の活力は、人口、労働参加率、労働生産性の変数で語られる。まちづくりの活力も人数と参加率と活動度で表せるが、「三つの視点」を重ねることで希望は広がる。第4次産業革命ともいわれ、情報通信技術が社会の隅々まで浸透し、AI(人工知能)、ビッグデータ等が市民生活に活用できる時代が到来する。だからこそ、データの分析・数値化では見えない地域固有の価値も重ねて、それぞれの生き方に寄り添った一点ものの政策づくり、「地域政策イノベーション」をめざしたい。

 【略歴】1955年、長野県諏訪市生まれ。東京大工学部卒、自治省(現総務省)入省。国や地方(宮崎、大分、岩手、福岡各県)で自治政策や地域づくりに取り組む。消防庁国民保護・防災部長、総務省地域力創造審議官、自治大学校長などを歴任。


=2017/02/26付 西日本新聞朝刊=

→電子版1周年記念!1万円分賞品券やQUOカードが当たる!!

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]