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【世界的パワーバランス変化】 姜 尚中さん

姜 尚中(カン・サンジュン)さん=熊本県立劇場館長
姜 尚中(カン・サンジュン)さん=熊本県立劇場館長
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◆新次元の日韓連携必要

 賛否両論が渦巻く「共謀罪」法案の審議や学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設計画をめぐる疑惑など、国内の政局は荒れ気味である。ただ、潮目の変化は、内政だけにとどまらない。むしろ、国際関係にパワーバランスの変化が顕在化しつつあることにもっと目を向けるべきである。

 兆候は、今月5日の安倍晋三首相の発言に表れている。「透明で公正な調達」という条件をつけながらも、中国の広域的経済圏構想である「一帯一路」への協力を初めて言明したのである。これは画期的なことである。なぜなら安倍政権の「地球俯瞰(ふかん)外交」が目指したものは、躍進著しい中国の覇権的な拡大を封じ込める戦略だったからである。

 一帯一路への日本の協力は、裏を返せば、地球俯瞰外交の事実上の転換を意味している。安全保障上でも日本や韓国にとって死活的に重要なシーレーン(海上交通路)に影響を与える一帯一路構想に日本が参加することは、安倍外交の金看板である地球俯瞰外交が頓挫していることを自ら認めたことになりかねない。

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 外交戦略の変化は、世界的なパワーバランス変化を反映している。環太平洋連携協定(TPP)によって中国を牽制(けんせい)しつつ、その中に取り込もうとする戦略は、米国の離脱と、米国抜きの漂流で狂いが生じつつある。しかも地球温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」からの米国離脱は、米国への国際的な信頼を損ね、その分、中国の発言力が大きくなり、欧州連合(EU)との連携強化が打ち出された。さらに南シナ海の自由航行をめぐる米中間の対立が浮き彫りになっているとはいえ、北朝鮮への国際的な圧力の強化で米中接近が現実味を帯びる可能性すら浮上しつつある。

 日米同盟の深化を最大のよりどころとする地球俯瞰外交も、トランプ大統領の米国が、予測しがたい不確定要因になりつつあり、その土台が揺らぎつつある。そのリスクをヘッジすべくロシアとの経済協力と領土返還の交渉に臨んだにもかかわらず、見通しは閉ざされたままである。世界的なパワーバランス変化によって経済や通商、安全保障や地球的規模への取り組みにおいて、地球俯瞰外交がその限界を露呈しつつあるのだ。

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 では、どのような戦略の練り直しが必要なのか。重要なことは、日米二国間主義から脱却し、足元の東アジアでEUの独仏と同じようなパートナーシップを結び、米国の不確定要因をハンドリングするとともに、中国の経済的ダイナミズムを取り込みつつ、その覇権的な拡大を牽制する戦略を構築することである。具体的には、日韓台の連携が思い浮かぶが、台湾は公式的には中国の一部であり、困難である。とすれば、まず日韓が重要にならざるをえない。

 両国には国民感情もささくれ立った面がある。しかし慰安婦問題をめぐる合意も、それを生かしつつ、新たな次元にレベルアップした日韓パートナーシップ構築に向けた共同宣言を通じて懸案を解消していくことはできる。何よりも歴史問題の解消を図るトラックと、経済や安保問題などに取り組む別のトラックを設け、二つのトラックで問題解決に取り組むシステムが定着すれば、パートナーシップはより深まっていくはずだ。

 同じような制度や価値を分かち持ち、米国に依存しつつ、その間合いの取り方に苦慮する日韓。中国の覇権の拡大を牽制する手だてを必要とし、北朝鮮の蛮行の脅威にさらされているのである。独仏にならい、日韓関係に新次元のパートナーシップを形成することができるか。世界的パワーバランス変化に対応する地政学的な戦略の練り直しは、そこにかかっている。

 【略歴】1950年、熊本市生まれ。早稲田大大学院博士課程修了後、ドイツ留学。国際基督教大准教授、東大大学院情報学環教授、聖学院大学長などを歴任。専攻は政治学、政治思想史。著書に「漱石のことば」など。


=2017/06/11付 西日本新聞朝刊=

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