被災地に咲く民泊の夢 熊本総局長 助清 文昭

 熊本県益城町でうれしい話を聞いた。赤井集落を訪ねた際に出会った城本聖也さん(74)、真澄さん(68)夫妻は熊本地震を経て、ある夢を追い始めたという。役場から「全壊」と認定された自宅の古民家を修繕し、民泊として旅人を受け入れる夢だ。

 かつて庄屋だった城本家の自宅は150年前の江戸末期建造とみられる。2度襲われた震度7の揺れに母屋はねじ曲がり、床下の束柱(つかばしら)も外れたが、転がってきた庭石が床下にはまり、束柱の代わりとなって崩壊を免れた。屋根瓦や柱が無事だったので、傾いてガラス戸の閉まらぬ家に2人で住み続けている。

 古民家の再建にこだわるのは、赤井集落をはじめ農村部の昔ながらの和風建築が被災後に次々と解体され、「田舎の景色が消えてしまう」(真澄さん)と危機感を抱いたからだ。慣れ親しんだ景色の喪失は古里の喪失につながる。

 夫妻を支えたのは、郷土史勉強会の仲間だった。地震直後、がれきに紛れた仏像や地蔵など文化財保存に一緒に走り回った3人だ。被災した民家から江戸期の駕籠(かご)を見つけた時は「熊本城から遠い益城に、こんな立派な物があったなんて」と驚いた。古きものを残すことを次世代への役目と感じている。

 へこたれずに明るく振る舞う城本さん夫妻のような人たちに出会うと、こちらも元気になる。気掛かりなのは、復興期にみられる「はさみ状格差」だ。災害から立ち直る人と「取り残された」と感じる人の心理的な落差が時間の経過とともに、はさみを開くように広がる現象を言う。自宅再建が遅れ、水が凍るほど厳しい寒さとなったこの冬をビニールハウスや倉庫で越した家族がいた。災害公営住宅の着工など表面的な復興が進みつつあるからこそ、抜け落ちたものに目を凝らしたい。

 集落の住民が散り散りとなったり、自治体が民間物件を借り上げた「みなし仮設」に入居したりし、孤独にさいなまれている人は多い。3人とまでは言わずとも1人でも寄り添う人がいれば、はさみ状格差は緩和されるだろう。

 城本さん夫妻の自宅も国登録文化財の申請手続きで修繕の見通しは立たないが、聖也さんの一言は粋だった。「70歳を超えて夢を語りよるのがいい」。熊本地震は発生3年目に入る。行政、地域、ボランティアが“心の復興”に力を注ぎ、より多くの人が夢を語れる1年にしたい。

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 ▼すけきよ・ふみあき 福岡市出身。福岡大卒、1989年入社。別府支局、長崎総局、佐賀総局、筑後大川支局などを経て2017年8月から現職。

=2018/04/14付 西日本新聞朝刊=

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