西日本新聞

特集・情熱の原点・北京五輪に挑む

ソフトボール・上野由岐子(ルネサス高崎)<上>挫折を糧にエースへ 

2008年07月02日 10:43
全国制覇を果たし、一躍脚光を浴びた柏原中(福岡市)3年時の上野。初の五輪だったアテネには苦い思いしかない
全国制覇を果たし、一躍脚光を浴びた柏原中(福岡市)3年時の上野。初の五輪だったアテネには苦い思いしかない
 五輪だけを見据え、この4年間を過ごしてきた。北京で悲願の金メダルを目指すソフトボール日本代表のエース、上野由岐子が投げ込む速球のスピードは最速119キロ。体感速度で野球の「160-170キロ」に相当するといわれるストレートへのこだわりは、当然ある。ただし、やみくもに速さだけを追求しているわけではない。173センチの体を貫くのは勝利への渇望だ。

 五輪代表に初選出された2004年のアテネを、上野は「あっという間に終わった感じ」と振り返る。1次リーグ初戦でオーストラリアに4回でKOされた。顔に浮かぶ玉のような汗が、当時日本代表監督の宇津木妙子(現ルネサス高崎総監督)には忘れられない。「もともと汗かきだけど尋常じゃなかった」。室温が16度に設定された選手村の部屋。リラックス効果が目的だったプール。体を冷やしすぎて体調を崩した。4人いた投手の中で、1人だけハチに右腕を刺される不運にも見舞われた。同リーグ最終戦の中国戦では五輪史上初の完全試合を達成しながら、3位決定戦のオーストラリア戦で登板機会は巡ってこなかった。

 消すことのできない五輪の苦い記憶は1つだけではない。シドニー五輪の前年、福岡・九州女子高2年の1999年夏。世界ジュニア選手権で優勝した直後に体育の授業で腰椎(ようつい)を骨折した。「あのけががなければ選んでいた」と宇津木は打ち明ける。高校生の五輪代表は幻となった。

 再び迎えた五輪イヤー。上野は今、充実した調整を続けている。「試合勘を養うのに時間が足りない」と、日本リーグは開幕から11試合すべてに志願登板。試合では相手チームからクレームがつくほど捕手とのサイン交換に時間を費やす。最大の武器である速球を生かすため、シュート系やスライダー系の変化球に磨きをかけた。北京で着用する代表の新ユニホームは上野の強い要望でベルトのないズボンに変更。変化球を投げる際に腕が当たるためだった。

 「自分で配球を考えて投げたい」。まな弟子の言葉に、宇津木は大黒柱としての自覚を感じ取る。「エースは心、つまり自分の軸を持たなければいけない。その軸が太くなった」。銅メダルにとどまった4年前、絶対的な存在にはなれなかった。由岐子の名前には「山を支えるような人間に」との両親の願いが込められている。剛腕は「不動のエース」として表彰式で日の丸を掲げる。 (敬称略)

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 ■歩み 1982年7月22日生まれの25歳。福岡市出身。173センチ、72キロ。右投げ右打ち。柏原小3年からソフトボールを始め、柏原中3年で全国制覇。九州女子高では国体優勝。2001年に日立高崎(現ルネサス高崎)入社。日本リーグでは1年目に新人賞に輝き02、03、05年はMVP。今年4月に日本人初の通算100勝を達成した。04年のアテネ五輪は銅メダル。


=2008/06/12付 西日本新聞朝刊=
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