【西スポ・甲子園ベンチ裏】死闘で押し出し涙の神村学園・金城 先輩のサインに首振った勝負の価値

延長12回2死満塁、サヨナラの押し出し四球を出し、うなだれる神村学園・金城(中央)
延長12回2死満塁、サヨナラの押し出し四球を出し、うなだれる神村学園・金城(中央)
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 夕日を受け、三塁側へ長い影が伸びていた。同点の延長12回2死満塁、マウンド上は神村学園(鹿児島)の右腕・金城伶於(2年)。フルカウントからの6球目を、明豊(大分)・浜田太貴(2年)が見送る。球審の手は挙がらない。サヨナラ押し出し四球。汗を拭った金城は、取った帽子を目深にかぶり直した。

 ジェットコースターのような、今大会最長の3時間2分だった。9回表、3点を追う神村学園が2死2ストライクから同点。突入した延長で12回2死から3点を勝ち越す。その裏、今度は明豊が2死走者なしから四球を挟んで4連打で追いついた。なおも攻め、冒頭の場面へとつながる。

 金城は究極的に追い込まれていた。前の2打席は抑えた好調の浜田に対し、初球フォーク、2球目スライダー、3球目フォーク、いずれも外角低めに外れる。これが4イニング目。握力も落ちてきていた。「変化球を投げても外れてしまう。真っすぐ一本でいく。外のストレートには手を出してこない」と切り替えた。

 4球目、アウトローいっぱいでストライク。大歓声が起きる。5球目を同じところに決め、さらに大きな歓声を浴びた。大きなうねりの中での6球目、捕手・田中怜央那(3年)のサインは変化球。金城は首を振った。ストレート。

 白球が指から離れていく。「入った、と思いました。前の球と変わらない、と…」。外角いっぱいに構えられたミットが、ストライクゾーンから外れる。田中怜は強引にゾーンへねじ込んでアピールする構えだったが、白球を収めたミットは黒土の上に落ちた。金城にとって80球目。両軍投手計404球目だった。

 土壇場で追いついた直後の9回から登板した金城。最初に観衆の目を引いたのは、スピードガンも計測しかねる超スローカーブだった。「僕は真っすぐが速くないので。さらに遅く」。球速差で打者にストレートを速く感じさせる生命線。ドロンと人を食った山なりの軌道が「失点即敗退」の状況下で異彩を放った。

 あとはスライダー、たまにフォーク。この日最速137キロのストレートはほとんど投げない。ミーティングで明豊打線は「真っすぐにめっぽう強い」と分かっていたから、バッテリーは徹底して変化球を使った。

 だから延長12回、最後の場面は例外だった。田中怜は「真っすぐでいったらいかれる(打たれる)かなと思ったんですけど、金城の気持ちが強かった。ピッチャーの投げたい球を投げさせないようでは、キャッチャー失格なので」と受け入れた。押し出しの6球目について、きっぱり「いい球でした」と言った。

 鹿児島大会での合計よりも長い3回2/3を投げた金城。次々駆け寄るチームメートに背中をたたかれ、涙が止まらなくなった。「自分の代のチームじゃないですし。反省して次につなげたい」。本職はショートで、投手は兼務の位置付けだ。酷な幕切れながら、結果を正面で受け止めた。

 最後の夏を終えた田中怜は頼もしげだった。「金城の人生の中で、一番の選択だったと思う。この経験を来年に生かしてほしい」。意思による選択。だから尊い。整列した両チームに注がれる拍手は等分だった。

=2017/08/19 西日本スポーツ=

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