地元遺産へ誘う

しなやかに過去とつきあう

岩尾款記者
フィアット

ラエラ・フランセスコさんの愛車「フィアット・チンクエチェント」

世界遺産に住んでいる、世界遺産を守っているという気負いはみじんも感じなかった。
石積みのとんがり屋根が魅力的なイタリア「アルベロベッロのトゥルッリ」と、ドイツ有数の炭鉱跡「ツォルフェライン炭鉱業遺産群」。まったく分野の違う文化遺産でありながら、ともに「しなやか」という印象が不思議と残っている。

アルベロベッロでは、内外壁は400年前と変わらぬ石積みのトゥルッリの中で「私たちはただ、普通に暮らしているだけですよ」と聞かされた。ツォルフェラインでは、炭鉱労働者が汗を流したシャワー室はれんが造りの外壁のみを残して改装され、パフォーマンスアートの活動拠点になっていた。肩肘張らずに昔からの暮らしを受け継ぐ。過去の歴史には敬意を払いつつ、現代の物差しで利用を進める。それがヨーロッパの文化遺産への向き合い方なのだ。茅葺きや木造家屋の維持に苦心する日本との差は何なのだろう。

もちろん、ヨーロッパは耐久性の高い「石の文化(建造物)」だという違いはある。だが「新しいことにこそ価値がある」といった「過去=負」という固定観念が私たちのどこかにないだろうか。ことさらに昔を評価するつもりはないが、何か大切なものを置き去りにしたり、捨て去ってしまったりしたのではないか、という思いが強くなった。

紙面の原稿でも登場したラエラ・フランセスコさんの愛車「フィアット・チンクエチェント」は燃費も悪く、排ガスも汚いはずだが、クラシックカーとしてイタリアでは税制で優遇されているらしい。

(岩尾款)

写真特集

写真一覧へ

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]