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若年性認知症

 65歳未満で発症する認知症。2009年の国の推計によると、全国に約3万8000人の患者がおり、発症年齢は平均51.3歳。男性により多いとされる。アルツハイマー病と脳卒中に起因する血管性認知症が大半。うつ病と誤診されるなど、診断までに時間がかかるケースも多い。40歳以上は介護保険を利用できるが、働き盛りでの発症は家計への影響が大きい。

2017年09月25日更新

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【「空白」を生きる 若年性認知症】<1>高齢者施設になじめず

 最初の異変は2002年、61歳のとき。福岡県八女市の原口義昭さん(享年73)は妻トシ子さん(70)と営んでいた保険代理店の仕事で、通い慣れた客の家に行けなくなった。同じ用件で何度も電話し、客から苦情が来るようになった。

 受診した脳神経外科では「年相応のもの忘れ」と言われたが、異変は続いた。別の総合病院で「若年性アルツハイマー型認知症」と診断された。定年なく働けると思っていた仕事は人に任せ、5年で廃業した。

 ステテコの上にパンツをはく。ゴルフ場で他人の下着を身に着ける。それまでできていたことができなくなっていく。自身の変化を察した義昭さんは「これからどうして食べていくか」と声を上げて泣いた。

 介護保険サービスを使えるよう、要介護認定を受けた。デイサービス(通所介護)施設を3カ所ほど見学したが、どこも「親のような年の人ばかり」。トシ子さんは「まだ何でもできるのにかわいそか」と思い、体は元気な義昭さんも「そんな所に何で俺が行かなんと」とあらがった。

 体力もプライドもある若年性認知症の人は高齢者向けの介護サービスになじめず、初期段階では居場所を見つけづらい。結局、トシ子さんは2年間、義昭さんを1人で世話した。

 「今までちゃんと生きてきて、おかしなところを見られたらかわいそう」と、近所にはひた隠しにした。トシ子さんの髪は抜けて坊主になり、眉毛やまつげまで抜け落ちた。介護を抱え込んだストレスだった。

 若年性認知症は進行も早いとされる。義昭さんは家にいるのに「家に帰りたい」と頭を下げた。リビングの隅で用を足しているのを見たとき、トシ子さんの頬を涙が伝った。

 06年、ようやく若年性認知症に理解のある社会福祉士川島豊輝さん(41)につながった。トシ子さんが「仕事に行こう」と川島さんが働くデイサービスまで送迎し、川島さんは「掃除しましょう」「今日の仕事は畑の草抜き」と職場を装って対応した。約1カ月で「よかとこ」となじんだ。

 それでも、次第に暴力が現れた。排せつ介助をする職員に殴りかかり、自宅でも靴を履かせるトシ子さんの頭をパンプスのヒールで殴りつけた。トシ子さんは逃げやすいよう夜も玄関の鍵を開けていた。川島さんが「介護される現実を受け入れられないから、プライドを守ろうとしていたのだろう」と受け止めた暴力は1年半ほど続いた。

 川島さんは11年、若年性認知症の人を積極的に受け入れる「デイサービス絆」(福岡県筑後市)を開設。最期まで義昭さんに寄り添った。

 義昭さんは発症から7~8年で言葉が出なくなり、穏やかになった。そして今年6月。大好きなベンチャーズの曲が流れる中、トシ子さんや娘、孫、川島さんに見守られて旅立った。トシ子さんは今、「悲しいこと、悔しいこともたくさんあったけど、いい人に出会えて精いっぱい介護できた。もっと多くの人に若年性認知症を理解してほしい」と振り返る。

 65歳未満で発症する若年性認知症。若くして発症するため、病気に気付かずに症状が進んだり、社会的支援が受けられずに孤立したり、仕事を失って経済的に困窮したりする「空白の期間」が課題となっている。若年性認知症の人とその家族を追った。

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【ワードBOX】若年性認知症

 65歳未満で発症する認知症。2009年の厚生労働省研究班の推計によると、全国に約3万8000人で、平均の発症年齢は51.3歳。女性よりも男性に多いとされる。脳卒中が原因で起こる血管性認知症と、アルツハイマー病が大半を占める。40歳以上であれば介護保険を利用できる。

=2015/09/17付 西日本新聞朝刊=

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