「まち」か「ちょう」か徹底調査 「町」の読み方の謎

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 「正確に言うと、『おんがまち』ではありません。『おんがちょう』なんです」-。福岡県の自治体について行政関係者と話をしているうち、話題に上った遠賀町について、耳を疑う“真実”を知らされた。県内30町では、遠賀町が唯一、音読みの「ちょう」。他の29町はすべて訓読みの「まち」だという。「町」を音読みするか訓読みするかは各町村が決めるらしい。試しにお隣の佐賀県に聞くと、なんと10町のうち9町が「ちょう」。さらに全国の状況を調べると、意外な地域性も見えてきた。

 なぜ福岡県内唯一の「ちょう」なのか。「由来については特に記録がないんです…」。遠賀町行政経営課の樋渡歩美さん(34)も首をかしげる。

 町制施行は1964年。同年4月1日、〈この村の名称「遠賀村(おんがむら)」を「遠賀町(おんがちょう)」に変更する。〉とルビを振って条例が施行されたが、町史などの資料に理由の説明はないという。「語呂がいいからじゃないか」と推測する職員もいるが、「まち」もあまり変わらないような気が…。

 目を転じて、北海道。ここは「まち」派が圧倒的な福岡県と正反対だ。129ある町のうち128が「ちょう」で、「まち」は森町だけ。イカめしが名物のこの町は昨年、〈唯一のまちであなたをおもてなし〉というキャッチフレーズを作ったとか。なぜ森町だけ「まち」なの?

 「こちらもはっきりこれだ、という理由は見つかっていません…」。町企画振興課に尋ねると、担当の岩井一桐(かずひさ)さん(42)。太平洋戦争前の38年の電報に「もりまち」と記されていた記録はあるが、肝心の理由はここでも分からなかった。

■村も分かれる

 自治体の名前はどう決まるのか。地方自治法は〈普通地方公共団体は、都道府県及び市町村とする〉と規定。〈地方公共団体の名称は、従来の名称による〉とされ、読み方については“言及”がない。総務省市町村課の担当者も「各自治体の歴史的な読み方については把握していない、としか言いようがないですね」と困った様子だ。

 47都道府県の担当課に問い合わせたところ、全国に1718ある市町村のうち、町は745。読み方は466町(62・6%)が「ちょう」で、279町(37・4%)が「まち」だった。

 47都道府県別に見ると、関東や甲信越では「まち」が圧倒的に多いのに対し、近畿と中四国では島根県川本町を除きすべて「ちょう」で“東町西町(ひがしまちせいちょう)”の様相。また福岡や北海道のように、「町」の読みが異なる自治体が一つだけあるのは8道県だが、西日本なのに「まち」派が大多数の福岡と、最東端にありながら「ちょう」が席巻する北海道は、特異さが目につく。

 九州では福岡以外にも大分の全3町が「まち」と読むなど、「ちょう」派4県、「まち」派3県とばらつきがあった。

 ちなみに全国183の村は155村(84・7%)が「むら」。28村(15・3%)の「そん」は沖縄県で19村を占めるなど南西方面に集中し、“北限”は鳥取県日吉津村(ひえづそん)だった。

 くまもと文学・歴史館(熊本市)館長の服部英雄九州大名誉教授(日本史)は「『そん』は中国文化の影響かもしれないが、江戸時代からの町は『まち』と呼ぶことが多く、明治になって町制を始めたところには『ちょう』が多い傾向があるのか…。難問中の難問だ」と苦笑い。

■どちらでも…

 謎は解けないものの、各町の担当者は「多くの人は、どちらでもかまわないのでは」と口をそろえる。

 記者の出身地は福岡県久山町(まち)。子どものころ、運動会や祭りで必ず流れる「久山音頭」を踊っていた。町制施行から19年後の75年、山陽新幹線の博多乗り入れを記念して、町が歌詞を公募して作った“オフィシャル音頭”である。

 〈ハァ~昇る朝日よ かがやく緑〉と明るい調子で始まり、さびは〈愛の花さく ひっさや~まちょ~〉と余韻たっぷり。ん? 「ちょう」になってる!

 「採用された歌詞が、町外の方の作だったので…」と町教育委員会の担当者。記者自身も、住民としてまったく気に留めていなかったことを再認識した。

 高齢化と人口減を抱えるニッポンの町村は個性豊か。まだまだ元気だ。

この記事は2016年04月08日付で、内容は当時のものです。

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