【DCの街角から】歴史的会談の「成功」とは

ホワイトハウス近くで北朝鮮を非難する活動を行う脱北者ら。トランプ大統領に寄せる期待は高いが…
ホワイトハウス近くで北朝鮮を非難する活動を行う脱北者ら。トランプ大統領に寄せる期待は高いが…
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 やる、やらないで大騒ぎになったトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長による「6・12会談」が迫ってきた。このコラムの掲載後、私はワシントンから開催地のシンガポールへ向かう。約25時間かけて現地に到着した揚げ句、トランプ氏が土壇場で「やはり中止する」と宣言するようなドタバタ劇は、ごめんこうむりたい。

 ワシントンにあまたあるシンクタンクでは、米朝会談に関する討論会が頻繁に開かれ、米朝協議担当者だった元米政府高官らが会談の行方について意見を戦わせている。当事国の米国やアジア諸国はもちろん、普段はそれほど北朝鮮問題を取り上げない欧州の特派員もこぞって取材に訪れるほど関心は高い。

 史上初の米朝首脳会談の成否はさておき、識者らは開催そのものが「歴史的だ」と口をそろえる。だが、両首脳のどちらが優勢かとの問いには「正恩氏」と答える向きがかなり多い。

 正恩氏は拘束していた米国人を解放するなど譲歩策を繰り出しながら、即時非核化を主張していたトランプ氏から「時間がかかってもいい」という言質を引き出した。核ミサイル実験を強行し続けた昨年、米国内で正恩氏は「経験不足で無謀な独裁者」と語られていたが、今春ごろから「若いが侮れない」と風向きが変わり、今や「非常に賢い」と評する識者までいる。

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 「正恩氏が称賛されるような会談にしてはいけない」。米国に住む脱北者グレース・ジョーさんと母ハン・ソンファさんは5月の取材時、既に深く憂慮していた。会談が、トランプ氏と正恩氏が笑顔で握手するような姿ばかり映し出される政治ショーと化すのではないか、と。

 懸念は識者の間にも広がる。「『世紀の会談』を成功させればノーベル賞」とおだてられたためか、トランプ氏の会談ありきの前のめり感は否めず、足元を見透かした正恩氏に主導権を握られた印象はぬぐえない。「不動産王」と呼ばれたトランプ氏が、実業界で培った自慢の交渉術で劇的な成果を導き出すのではとの期待論は、支持層の間でも急速にしぼんでいる。

 会談で大きな進展がなければ、脱北者や拉致被害者家族など北朝鮮問題の解決を切望する人たちに早期打開への期待をあおったトランプ氏の言動は罪深くもある。ただ、トランプ氏に批判的な識者からも、非核化実現の長期化に理解を示し始めた最近のトランプ氏の言動を「現実的」と評価する声が上がる。会談で最低限、協議継続の約束ができれば希望はつながる。

 「たとえ大きな成果がなくても、両者とも『成功』と主張し合うだろう」。米情報機関の元北朝鮮担当者の見通しが現実味を帯びている。 (田中伸幸)

=2018/06/09付 西日本新聞夕刊=

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