【DCの街角から】小規模農家が見せた涙

モーエンさんがローンを組んで購入した約3千万円のコンバイン。「燃料費も上がり経費はかさむ一方だ」とつぶやいた
モーエンさんがローンを組んで購入した約3千万円のコンバイン。「燃料費も上がり経費はかさむ一方だ」とつぶやいた
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貿易戦争に伴う大豆価格の下落に怒りをぶつけるクラバンドさん(右)。「転作すればいいと言う人がいるが、何だったら生きていけるのか教えてくれよ」
貿易戦争に伴う大豆価格の下落に怒りをぶつけるクラバンドさん(右)。「転作すればいいと言う人がいるが、何だったら生きていけるのか教えてくれよ」
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 23日付朝刊で紹介した米中西部ミネソタ州の大豆農家モーエンさん(66)が取材中、タイヤの直径が自身の背丈ほどもあるコンバインを見せてくれた。日本円で約3千万円。米国では小規模農家とはいえ、大豆の作付面積だけでヤフオクドーム23個分以上あり、他に3品目の農産物を手掛けているとあって、大型投資は欠かせないそうだ。

 ただ、誇らしげに紹介する表情には憂いものぞいた。コンバインのローン返済に加え、燃料費も上がるなど経費はかさみ、穀物価格は全般的に下落。そんな中での「貿易戦争」で最大の取引先、中国への大豆輸出が止まれば支払いは滞ってしまう。

 父を継いで農場経営を始めたのは1975年。昔は困ったときには助け合う農家仲間が近所に多くおり「今より小さな規模だったが、私のような家族経営の農家でも十分やっていけた」。しかし今、農業は大規模化が進み、その波に乗らざるを得ない。耐えられずに農家をやめた友人の名を何人も口にした。

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 モーエンさんの友人で、同じく大豆農家のクラバンドさん(42)はかつて一部の畑を借りていた。地主たちは地域で暮らし、酒を酌み交わす仲だった。ところが、昨今の地主は都市部や遠く離れた西海岸などに住み、顔を合わせることはないという。「不作だった年に『今年はローンの支払いは心配しなくていいよ』と言ってくれた金融機関の担当者もいたが、そんな時代ではなくなった」と嘆く。

 農業は経営が不安定な上にコミュニティーは廃れる一方だ。小規模農家は大規模な「メガ農家」との競争にもさらされる。「この間、トラクターで作業している父の横に4歳の息子が座っていたのを見て涙が出たよ。農業に興味を持っても、こんな状態では継がせられないって」。野球帽のつばの陰に隠れたクラバンドさんの瞳が潤んだ。

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 「大もうけしなくていい。子どもを育てるのに必要な稼ぎさえあれば」と語る家族経営の大豆農家たちは、活路は輸出にしか見いだせないと口々に語る。

 米国からの大豆輸出先1位(2017年)である中国との貿易摩擦の長期化を案じて「日本が大豆の輸入を増やして、一部を中国に輸出してくれればいい」と真顔で語る人もいれば、輸出先4位の日本市場で人気の、オーガニック大豆の消費拡大に大きな期待を寄せる人もいた。

 そんな思いを知ってか、トランプ大統領は25日、欧州連合(EU)との首脳会談で、EUから大豆輸入増の約束を取り付けた。これが中国に代わる市場開拓の動きだとすれば、EUと同じく貿易摩擦を抱える日本にも検討を迫ってくると考えるのが自然だろう。 (田中伸幸)

=2018/07/28付 西日本新聞夕刊=

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