ごんぎつね(2)教材研究 先生も格闘している

ごんぎつねの授業で、武内小学校(佐賀県武雄市)の児童はプリントファイルの表紙にごんを描いていた。その表情には違いがある
ごんぎつねの授業で、武内小学校(佐賀県武雄市)の児童はプリントファイルの表紙にごんを描いていた。その表情には違いがある
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 ずるい、悪賢い、人をだます…。キツネといえば、そんな負のイメージが浮かぶ。昔話や童話ではそう描かれることが多いからだ。でも、そうだろうか。

 小学校教諭を務め、現在は福岡県教育センターで小学校国語科の指導主事を務める立石泰之さん(44)。子どもたちが小学4年生で出合う教材「ごんぎつね」には、そんな問い掛けも含まれていると言う。

 ごんは悪いキツネ、いいキツネ?

 授業で先生たちは必ず、子どもたちにこう問い掛ける。当初、子どもたちは「悪いキツネ。だって、いたずらばかりして、村人を困らせているから」と答える。だが、着目ポイントを変え、読み返すうち、その見方も変わっていく。立石さんは「偏見や不条理、少数者へのまなざし…。多文化共生の時代に向かおうとする中、はっと気付かされる教材でもある」と話す。

 自身も小学校時代、教科書でごんぎつねを読み、「初めて出合った悲劇」として心に焼き付いている。だが、教員になり、あらためて読み返すと、そんなメッセージも込められていることに気付くという。

 「読む年齢によって解釈が変わってくる。そして、伝えたい思いがいっぱい生まれる物語」。子どもたちばかりではなく、教える側の教員にとっても難教材であるという。

   ◇   ◇

 前回登場した橋本教諭は、新任1年目で4年生を担任したが、立石さんは5、6年生の担任が続き、ごんぎつねを教えたのは30代後半になってから。「子どもたち自らが気付き、学び合う授業」を目指した。

 教員はつい「何を指導すべきか」と考え、指導者目線に立つ。授業では、めあて(学習目標)につながる意見を子どもたちに「言わせよう」とする。その結果、教員誘導型の授業になってしまう。そうではなく、子ども自らの学びを「待つ」授業改革を目指したのだった。

 ごんの気持ちを考えるためには、どの言葉に着目したらいいだろう?

 多くの教員は、子どもの発言を予測し、正答しそうな子どもを後半に指名し、授業をまとめる。ぼんやりしていたり、的外れな意見は、何となくやり過ごす。だが、立石さんはそんな子どもの意見も尊重した。考えの真意や根拠、理由について「なぜそう思うの」と3回問い返すことを心掛けたという。

 「もやもやしているけれど、子ども一人一人の中にちゃんと考えはあって、友達の読みに触れたり、問い返されたりすることで、自分で言葉にできる瞬間があるんですよ」

 ごんは優しいキツネなのに、なぜいたずらを繰り返したのだろう?

 「のに発問」にも努めたという。「…なのに、なぜ…」という問い掛け。人間の本質に迫る子ども自身の解釈をより明確にする狙いがある。「先輩からの受け売りなんですけどね」

 教科書に掲載されて60年。この物語の背後には、先輩教員から後輩へと指導ノウハウが受け継がれ、授業研究を続ける教員たちの物語も流れている。

   ◇   ◇

 フランスの作家・サン=テグジュペリの童話「星の王子さま」にも、キツネが現れ別れ際、王子にこう語り掛ける。

 〈じゃあ秘密を教えるよ。とてもかんたんなことだ。ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない〉

 ごんぎつねを読んでいると、ふと思い浮かべる一節だ。キツネは「賢者」として登場する。

 目に見えない、大切なことって何だろう。それは「ごんぎつね」の物語にも通底する主題でもある。「不滅の文学教材」とも呼ばれるこの物語と向き合い、子どもたちばかりではなく、先生たちも格闘し、成長している。

 ◆ごんぎつねの授業 この教材を巡っては、多彩な授業モデルが生まれ、現場で広がる。音読・朗読、討論ばかりではなく、主人公・ごんや兵十に手紙を書く▽その後の物語(ごんの死後)を書く▽ペープサート(人形を使って、位置関係や距離を含めた場面理解)▽作者・新美南吉の他作品も読み、感想文を書く。

 古くから小学校の教科書に掲載され続ける物語としては、ロシアの民話「おおきなかぶ」(1年)▽外国の絵本で谷川俊太郎訳「スイミー」(2年)▽モチモチの木(3年)▽椋鳩十の「大造じいさんとガン」(5年)などがあり、それぞれに授業研究の歴史がある。

=2016/12/11付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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