被災地の受験(1)未来へ ある女子生徒の挑戦

放課後学習会で英語の教科書を開き、外国語大学の学生から指導を受けるアユミ=昨年12月16日
放課後学習会で英語の教科書を開き、外国語大学の学生から指導を受けるアユミ=昨年12月16日
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 途方に暮れたように、ひしゃげた家々がまだ点在する。昨年4月、震度7を2度観測した熊本県益城町。町立木山中学校(262人)はその中心部にあり、同地区でも関連死を含め8人が亡くなった。そんな学校にも、受験の試練は容赦なく押し寄せる。

 「当たり前」の生活一変

 震災後、被災地には多くのボランティアが入り、子どもたちの学習支援にも当たった。同校でも、NPO法人「カタリバ」のスタッフが今も訪れ、放課後学習会を開いている。3年生のアユミ(15)=仮名=は、塾に通う週2日を除き、同級生と連れだってやってくる。

 取材で訪ねた昨年暮れ。その日は、外国語大学の学生ボランティアも指導に来ていて、英文の「関係代名詞」について、熱心に質問していた。英語は得意教科で「将来は英語を生かした職業に就きたい」。ある公立高校を目指している。

 前震があった夜は、2年前に新築したばかりの家にいた。「週末、どこ行こうか?」。キッチンの机で、友達とLINE(ライン)を交わした直後のことだった。両親と祖母の4人暮らし。近くの公園で車中泊をしたのが始まりだった。

 本震から3週間は、同県山鹿市の市民センターで避難生活を強いられた。近くには中学校があり、生徒は通学していた。「学校に行きたいな~」。アユミがそうつぶやいたことを、母親(44)は覚えている。

 校区内の小学校を間借りし、授業が再開したのは5月の連休明け。アユミは「半壊」した自宅から通い始めたが、親友2人の転校が何より悲しかった。「当たり前にいた存在がいない。地震のせいで全部変わった」

 だが、やがてこうも感じた。「前は、勉強やだなーって思ってたけど、友達と一緒に学べるって、こんなに幸せなんだ」

 2学期は8月末、校舎改修を終えた木山中で迎えた。4カ月遅れとなった9月の体育大会で、アユミは応援団長を務めた。

 各学年3クラスで毎年、3チームの応援団長を3年生が務める。アユミはその応援団長に立候補し、周囲を驚かせた。「おとなしいタイプ」と思われていたからだ。男子2人も立候補したが、投票で決まった。

 アユミにはずっと気掛かりなことがあった。教室で机が隣の級友。父と祖母を震災で亡くし、学校を休みがちになっていた。「何て声を掛けたらいいのか、思いつかなくて」

 そのころには、転校していた親友2人も戻っていた。「『やろう』じゃなく『やってみよう』。ピリピリせずに、笑顔で楽しもう」。大会当日、アユミはひときわ大きな声でそう、みんなに呼び掛けたという。

 その場面を私は見ていないが、話を聞きながら、アユミは自身を含め、学校や地域に向け、彼女なりに精いっぱいの「応援歌」を歌ったのだと思った。

 「受験のスイッチ」が入ったのは、10月末の学級対抗合唱コンクールが終わってから。自宅の部屋を片付け、午前零時ごろまで机に向かうようになった。

 合唱コンクールで、アユミたちのクラスは金賞に輝いた。課題曲として歌ったのは、ナオト・インティライミさんの「未来へ」。〈不安だらけの未来に立ったって きっと光はあるんだって〉。アユミはその終盤の歌詞を歌っていたとき、一心に指揮をする級友と目が合い、涙声になったという。

 そんな彼女を、1年生からずっと同じ担任教諭(35)が見守っている。みんな受験にピリピリし始めたからだろうか。「ジャムおじさんが、ジャムを持参」などと、寒すぎるオヤジギャグを連発する。「受験は団体戦だからな」が口癖だ。

 いろいろあったけれど、年が変わり、3月の公立高校入試はもう目前。「やるだけ、やってみよう」。アユミはそう思っている。

 ◆木山中 地震後の歩み

 4月14、16日 校舎に亀裂、廊下が傾き、水道管が破裂。図書室や職員室が水びたしになった。

 4月17日 生徒271人全員の無事が確認されたが、生徒1人は父と祖母を亡くした。

 5月9日 近くの益城中央小学校で学校再開。小中学校、保育所が共同使用。ホールを仕切った教室で、午後2時限だけの授業が始まった。

 5月18日 朝と放課後の学習支援を「カタリバ」が始める。

 6月 予定通り中体連大会。バレーボール、バスケットボール部など奮闘。

 7月29日 1学期終了式。14日短縮の夏休みに入る。

 8月22日 改修を終えた本校舎で2学期スタート。

 9月 「魂気」をテーマに体育大会。志望校決定につながる県内共通テスト実施。

 10月 学級対抗合唱コンクール

 11月 2度目の共通テスト。

 12月初旬 三者面談で志望校決める。

=2017/01/08付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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