被災地の受験(2)逆バネ 1カ月遅れのハンディ

仮設校舎で行われていた東野中学校3年生の授業。エアコンは完備されているが、外からの音が気になる=昨年12月
仮設校舎で行われていた東野中学校3年生の授業。エアコンは完備されているが、外からの音が気になる=昨年12月
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 2棟のプレハブ校舎が、グラウンドの一角に身を縮めるように立っていた。

 熊本市立東野中学校(東区、536人)は、地震で北校舎が損壊し、使えなくなった。昨年5月から1年生6クラスは体育館で授業を再開。受験を控える3年生は、別棟の理科室やパソコン教室を使ったが、雨漏りする部屋もあった。8月末に始まった2学期からは、特別支援学級を含む計17クラスが今の仮設校舎で学んでいる。

 教室に入ると、いすの脚にはテニスボールが付けられていた。「生徒が立ったり座ったりするときの騒音防止です」。3年5組担任で数学担当の河野芳宏教諭(44)は話す。うーん確かに、廊下の足音や隣の教室の話し声が筒抜けだ。

 とりわけ、困っているのが体育の授業。グラウンドで生徒たちが元気にやれば、やるだけ、教室では騒々しい。生徒たちの着替え時間を考慮し、体育授業は早めに切り上げられるが、ほかのクラスは授業中。一斉移動の足音に私語も加わり、教諭が思わず注意することもある。

 各教室にはエアコンが完備されたが、かつての落ち着いた学習環境にはまだほど遠い。自習室として開放されていた教室も使えなくなり、朝早く学校に来る生徒も少なくなった。3年生はそんな中、受験を迎える。

   ◇   ◇

  約1カ月の休校に伴う授業の遅れを、学校はどう取り戻していったのだろう。

 この中学校では、通常は5時限授業の曜日を6時限にし、本来は休校の土曜日にも一部平常授業を実施。終業式にも授業を組み込み、遅れを取り戻していったという。

 逆に、50分授業を45分に短縮したり、掃除の時間も一部カットしたりと、臨機応変に対応した。教員が出張する場合、自習にするケースが多いが、別教科の授業にしっかり充てた。「11月ごろには例年のペースまで追いついた」と河野教諭。数学でも、週4こまの授業数を5~7こまに増やしたという。

 2学期は合唱コンクールや職場体験、修学旅行などの学校行事もめじろ押しだが、何とかやりくりした。「ゆとりはなかったけれど、生徒たちが楽しみにしていることですからね」。松永洋校長(56)は振り返る。

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  そんな中、先生たちの心配は、受験を控えた3年生の学力。だが、志望校判定にもつながる9月、11月の県内共通テストの結果は意外だった。偏差値、平均点ともに例年を上回った。

 学力平均は学年によって波があり、現在の3年生は「標準型」。確かに、学力調査結果を1年時から経年で見ると、主要教科の成績は上昇傾向をたどっていたが、授業の遅れや学習環境を考えると…。「試練が逆バネ(危機バネ)となり、生徒たちの学習意欲や集中度を高める結果につながったのではないか」。教員たちはそう思う。

 子どもたちの学力格差を読み解くキーワードの一つとして、「学びからの逃走」を指摘する専門家がいる。

 子どもたちは本来、学習意欲を持っている。勉強ができない子は、できるようになりたいと、誰もが思う。だが、その学ぶ前から「どうせ僕は、私は」「勉強すれば、安定した未来が得られるの?」と、はなからあきらめ、学ぼうとしない。それはある意味、私たち大人のあきらめ意識や混迷の時代を映し出しているのではないかと。

 でも、地震という試練は、そんな子どもたちの意識を変えるきっかけになったのかもしれない。「学びからの逃走」から「学びへの気づき」への転換とも言えるような。先生や生徒たちから話を聞きながら、そう思った。

 ◆熊本市の高校受験

 熊本市内には国公私立の52中学校があり、中学3年生は約7300人。大半が高校に進学する。

 42校の市立中学校は、熊本地震のため4月15日から一斉休校となり、4月25日~5月10日に授業を再開した。各校は最大で約60こまの授業時間を失ったため、2学期の開始時期を8月25日に早めた。

 高校受験では、今月下旬に国立高専の推薦入試があり、多くの私立高校で専願入試も実施される。2月には公立高校の前期入試や私立高校の一般入試があり、3月8、9日に公立高校後期入試がある。

=2017/01/15付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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