被災地の受験(6)予備校ロード 意志ある所に道あり

悩みに悩んだ志望校選択に答えを出した井芹彩佳さん(左)にエールを送る進路相談担当の篠原恵美さん=13日午後、壺溪塾水前寺校
悩みに悩んだ志望校選択に答えを出した井芹彩佳さん(左)にエールを送る進路相談担当の篠原恵美さん=13日午後、壺溪塾水前寺校
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 JR新水前寺駅(熊本市中央区)に近いコンビニ店前。受験生であろう男子生徒が外で肉まんをぱくつきながら、薄明かりを頼りに参考書を読み込んでいた。13日午後7時すぎ。寒風の中、1分1秒を惜しむかのように。大学入試センター試験が終わり、私立大入試が続く。そしていよいよ、国公立大入試の前期日程(25、26日)へ。

 一帯には高校が多く、交通の便も良好なことから、熊本市電が走る1キロほどの通りに学習塾や予備校が十数校ひしめく。夕方になると、徒歩、自転車、市電、バス、JRで高校生や予備校生たちが集まってくる。

 英語が得意な熊本市南区の高校3年、井芹彩佳(いせり・さやか)さん(18)もその一人。幼いころから、小学校教諭の父の影響で「先生っていいな」とぼんやり考えていた。だから、第1志望は熊本大教育学部。高2の夏から老舗予備校「壺溪塾(こけいじゅく)」水前寺校で、苦手な数学の克服を目指してきた。

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 受験が本格化する高3の4月。2度の激震が自宅マンションを揺さぶった。14日の前震では、勉強部屋から両親がいる居間に逃げる途中、右肘をすりむいた。父母に挟まれて眠っていた16日未明の本震では、マンションにひびが入り「半壊」に。車中泊も経験した。

 父は時折、マンション修復の話し合いに出掛ける。費用がどのくらい必要かは知らないが、協議がすんなりまとまらない状況はうかがえる。それでも、経済的な話を直接聞かされたことはない。両親は「自分で決めた道を応援する」と見守ってくれる。地震の前後で心境の変化は「特にない」という。

 熊本地震の建物被害はモザイク状だ。全壊家屋の近くに、見た目には地震前と変わらない家もある。進路相談担当の篠原恵美さん(28)は「経済的理由で進学を断念したり、県外から地元へと志望校を変更したりする生徒がいるかと心配していたが、意外と変化はなかった」と話す。受験を迎える被災地の家庭にはそれぞれ、他人にうかがえない進路選択の葛藤もあっただろうが、わが子に心配をかけまいとする親心がクッションになっているのかもしれない。

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 彩佳さんは、高校の朝夕の課外授業を受け、毎週月曜は午後8時45分から10時15分まで塾で学ぶ。模試判定は合格ラインを行ったり来たり。センター試験では、英語、国語、社会は満足いく出来だったが、数学が…。「大失敗。見たことない問題ばかり。全然分からなかった」。その夜、自己採点し、泣いた。

 熊本大はセンター試験の全5教科が評価対象。第2志望にしていた熊本県立大文学部は英語、国語、社会の3教科で受験でき、2次試験は得意の英語だけ。進路担当の篠原さんには電話で「迷っています」と伝えたものの、相談はせず、1人で悩み、自分で決めた。母親と一緒に受けた高校の三者面談は30分を要した。「どうする?」「県立大にします」

 でも、受験勉強はラストスパートなのに、心にもやがかかったようで、奮い立たない。

 そんなとき、高校の図書館で一冊の本が目に留まった。タイトルは忘れたが、書かれていた言葉は覚えている。「夢の条件はわくわくできること」。等身大の自分に向き合い、将来の自分を想像してみた。

 私、何が好きなんだろう。何をしたいんだろう。教師への強い思いがある訳じゃない。それよりも、海外の人と接する仕事をしたい。世界の果てまで行ってみたい。県立大で英語を学び、夢への可能性を広げる道もありなんじゃないかな…。そう思い立つと、迷いは吹っ切れた。

 「Where there is a will, there is a way」(意志ある所に道は開ける)

 その言葉を胸に、彩佳さんは25日の受験に挑むという。

 ◆被災地受験生の支援制度 文部科学省によると、熊本地震の被災地受験生を対象に、国立大校、私立大約170校で受験生、在校生向けの入学金や授業料の減免措置がある。全壊、大規模半壊などの罹災(りさい)証明書提出や世帯主の収入など各大学の条件を満たす必要がある。受験料の減免規定を独自に設けた大学も多い。
 被災地受験生を対象にした無利子、有利子の奨学金貸与もある。貸与額は「私立大、自宅外通学」は月額3万円か6万4000円▽「国立大、自宅通学」は同3万円か4万5000円など。受け付けは継続中で、大学を通して日本学生支援機構に申し込む。

=2017/02/19付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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