通学路(2)校区外通学 近い学校選んだけれど

青パトは校区内を約1時間巡回し、下校時間帯の児童を毎日見守っている=6日、佐賀市内
青パトは校区内を約1時間巡回し、下校時間帯の児童を毎日見守っている=6日、佐賀市内
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 「もう、学校、出たろうか」。6日午後2時半、JR佐賀駅に近い佐賀市の神野(こうの)公民館。蛍光色のジャンパーを着た男性2人が腕時計に目を落とし、自主防犯ボランティアの「青パト」に乗り込んだ。「ただいま、安全パトロール中です」。春が膨らむ陽気の中、住宅街にアナウンスが響き始めた。

 この日は、校区内の神野小学校から「下校時刻を1時間前倒しにする」と連絡が入り、早めの巡回が始まった。ハンドルを握るのは、神野校区自治会長会の馬場久雄会長(81)。助手席には駅西区自治会の平井和彰会長(73)。「朝は集団登校だけど、帰りはばらばらだからね」

 ランドセルに黄色いカバーを付けた1年生が、1人で帰宅する姿も見られる。婦人会や老人会、PTAなどでつくる「子どもを見守る会」のメンバーも下校時間帯、輪番で青パトに乗り、見回りを続けているという。

 隣接校区との境界に差し掛かったときだった。「あの大きいマンションは隣の校区ですが、みんなこっち(神野小)に通いよる」と馬場さん。神野小(769人)には、隣接する5校区から百数十人の児童が通学しているという。

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 佐賀市では2006年度、入学する小学校を隣接校区であれば自由に選べる「隣接校区選択制」を導入した。

 「市街地の拡大や宅地開発などにより、学校が必ずしも一帯人口の重心に立地しなくなった」「利便性や安全面から、保護者の要望が多い」

 同市教委は導入理由をそう説明する。近年は約1割の児童が校区外通学をしており、市中心部の利用が多いという。

 校区外通学を希望する理由を、保護者に尋ねたアンケートでは「学校が近い」「通学路が安全」「祖父母の家がある」などが目立ち、きょうだいで校区外通学をするケースも増えているようだった。

 長崎市も05年度、「通学の利便」「特色ある学校づくり」などを理由に、佐賀市と同じ隣接校方式の学校選択制を導入した。ところが、「坂の街」ならではの影響が出た。坂の上に立地する中学校の生徒数は約160人から約60人に減少し、平地の中学校では生徒数が3割増という現象が生じたのだ。

 長崎市教委の担当者は「学校選択に偏りが生じ、地域の子は地域で守り育てる、という考えが成立しなくなった」と話す。遠距離通学でバスやマイカー使用が増え、部活動や運動会、地域行事も徐々に縮小。学校間格差が広がる「負のスパイラル」にも陥り12年度、制度を中止したという。

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 子どもの安全安心を考え、校区内の遠い小学校より、より近い隣接校区の小学校へ。それは、メリットも大きいが、学校を基盤とした地域コミュニティー(共同体)を揺るがすリスクも秘めていて、一長一短があるようだ。

 校区外から通学する児童を受け入れている、佐賀市内のある小学校教頭は「校区内はともかく、校区外は目が届かない。通学路も全部は把握できない。各家庭の自己責任」とも話した。通学校区選択の弾力化で、子どもの安全安心が守られているように見えて、実は責任や対応の所在があいまいになっているようにも思えた。

 青パト出発から約1時間。児童たちはおおむね帰宅したのか、ランドセル姿は減った。

 ふと馬場さんが青パトのアクセルを緩めた。歩道にはおしゃべりに夢中になっている児童2人。平井さんが車窓から「用心して帰らんば」と声を掛けると、2人は「はーい」。2人とも顔なじみで、馬場さんは「知らん人は無視するか逃げろ、と教えられる時代。顔を知っとるかどうかは大事」と話しながら、手を振った。

 ◆学校選択制 児童生徒が希望する学校に通う権利を保障する仕組みで、2000年度から東京都品川区が導入したことで知られる。学校間に競争原理を導入する狙いもある。1997年、当時の文部省が全国に出した「通学区域制度の弾力的運用について」という通知に基づく。導入範囲の広い順に、自由選択制▽ブロック選択制▽隣接校区選択制-などがある。
 2012年の全国調査では、246小学校、204中学校で導入されていた。

=2017/03/12付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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