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通学路(3)変化の道  学校がより遠くなる

通学路の安全安心をテーマに、九州大教育学部で開かれた講演会。「他分野連携プログラム」として、多彩な研究者を招き、視野を広げようとしている=2月17日
通学路の安全安心をテーマに、九州大教育学部で開かれた講演会。「他分野連携プログラム」として、多彩な研究者を招き、視野を広げようとしている=2月17日
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 2030年、児童生徒の通学路はどう変わっているだろう。
 
 20年度から小中高校で順次導入される新学習指導要領。大学入試改革ともセットになり、アクティブ・ラーニング(児童生徒同士の学び合い)▽プログラミング教育(パソコンを使った論理的思考力育成)▽小学3年生からの英語授業(英語教育の早期化)など、教育改革の大波が押し寄せようとしている。

 なぜ変えるのか? 文部科学省担当者の説明には、この「2030年」が度々登場する。グローバル化や人工知能(AI)のさらなる発達が予想され、児童生徒が習得すべき学力の捉え方、学習内容の質と量、授業スタイルも変わらなければならない。だから、時代変化に対応し、学校教育の基準も変える必要があると。

 通学路も変わろうとしている。過疎・少子化に伴う学校統廃合、小中一貫校新設などに伴い、通学校区は今でも拡大する傾向にある。30年にはより遠い学校に通う児童生徒が増え、下校時刻も変わっているのかもしれない。

   ◇   ◇

  通学路の安全・安心を考える講演会が2月、九州大教育学部(福岡市東区)で開かれた。講師に招かれたのは大阪工業大の吉村英祐教授(61)で、専門は建築計画。通学路の実態を探るため、大阪府守口市で13年に実施した保護者アンケートを中心に語った。

 守口市のある地域では16年度、小学校2校と中学校1校を統合し、小中一貫校が新設された。吉村教授が市教委の依頼を受け、アンケートを実施したのはその準備時期。少子化や学力強化に向けた学校統廃合なのだが、児童の中には、小学校が遠くなり、車の通行量の多い幹線道路を渡って登下校せざるを得ないケースが生じた。

 アンケートでは交通、犯罪不安の両面から調査した。交通面では「信号のない道路」「六差路の交差点」などでの不安が目立った。「スーパーマーケット周辺」を挙げる人もいた。車の往来ばかりでなく、路上駐車や自転車往来も不安要因だった。

 犯罪面では「線路の高架下」「落書きのある公園」「夜の学校周辺」などが挙がった。逆に、不安が少なかったのは「住居と商店が適度に混在している地域」。吉村教授は「商店主らが、それとなく子どもたちを見守ってくれているという安心感が大きいようだったが、その肝心の商店が空き店舗に変わりつつある」と顔を曇らせた。

 新設された小中一貫校では、この情報を地図にまとめて共有。保護者同伴の集団登校を続ける。任意加入の民間企業の「子ども見守りサービス」も半数が利用しているという。ICタグをランドセルに入れ、児童が校門を通過すると、保護者にメールが届く仕組みだ。

   ◇   ◇

  ただ、同じテーマで昨年講演した元立命館大・博士研究員の水月昭道(みづき・しょうどう)さん(49)は、少し違った視点から通学路を捉えた。

 「友達とおしゃべりや道草をしながら登下校する通学路は、子どもにとってもう一つの学校。安全安心は最優先されるべきだが、過度なリスク論や行動制限は、子どもにとってせっかくの学びの機会を、奪うことになっていないか」

 水月さんは九大大学院で人間環境学を学び、小学生と一緒に下校しながら、負のイメージで捉えられがちな道草の教育効果を研究してきた。昨年からは福岡県糸島市にある実家の寺の跡を継ぎ、住職を務める。

 「いたずらをして近所の人に叱られたり、学校では目立たない子が、帰り道ではヒーローに輝いたり…。通学路って、子ども文化が花開く、実に豊かな学びの空間」

 「疑いではなく、地域の心配りが、網の目のように張り巡らされる地域づくりへ。子どもの通学路を、大人が健康づくりを兼ねてウオーキングするだけでも、変わるんじゃないかな」

 通学路問題は、単なる道の問題ではなく、学校を核にした地域のあり方や関係を考え直す入り口のように思えた。

 ◆通学距離 小中学生の通学距離について、文部科学省は「義務教育諸学校等施設費の国庫負担等に関する法律施行令」で、小学校はおおむね4キロ以内、中学校は6キロ以内との目安を定めている。昭和の高度成長時代、ニュータウン建設にあたっては、米国の社会・教育運動家、ペリーが提唱した「近隣住区論」に基づき、小学校などを中核にした地域整備が進んだ。同理論では、都市と地方で通学事情は異なるものの、小学校の通学距離は2分の1マイル(約800メートル)以内が妥当と、一つの指針を示している。

=2017/03/19付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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