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道徳の授業(2)揺さぶり 脱「教え込み授業」

西浦上小の道徳の出前授業で、児童の意見を聞く山田貞二主席指導主事(左端)=昨年11月、長崎市
西浦上小の道徳の出前授業で、児童の意見を聞く山田貞二主席指導主事(左端)=昨年11月、長崎市
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 「ケイコちゃんは、悔しくなかったのかな」。長崎市立西浦上小で昨年11月に開かれた6年生の道徳の出前授業。先生役の愛知県教育委員会の山田貞二主席指導主事(55)が問い掛けると、多くの児童が考え込むようなしぐさを見せた。

 この日の題材は、絵本「6さいのおよめさん」。

 〈お嫁さんになりたいという夢を持っていたケイコちゃんは、小児がんにかかって6歳で亡くなり、夢だったドレス姿で家族に見送られた。6年間の人生は幸せだったと言えるのか、それとも…〉

 児童からは「家族や友達に見守られていた」「あきらめないで生きていた」と次々に声が上がり、大半が「ケイコちゃんは幸せだった」と答えた。

 「これまでの道徳ならこれで終わるパターンが多かった。そこに『悔しくなかったか』と尋ねることで、価値観に揺さぶりをかけたかった。大事なのは考え方を揺さぶり、別の見方につなげたり、本心に気付かせたりすることだ」と山田さん。

 授業では揺さぶりの発問をした後、児童同士が話し合う時間(アクティブ・ラーニング)を設けた。ケイコちゃんの人生を幸せと捉えていた児童らは「自分が同じ立場なら嫌だ」「でも、大好きだった学校に行けた時は、幸せだったと思う」などと、意見を交わした。

 幸せか、否か。この日の授業は結論を出さずに終えた。「ケイコちゃんの人生は幸せな面だけでなく、悲しい面もあった点に子どもが気付き、考えることにこそ意義がある。一つの見方に流されないよう、自分は意見を言わず、発言を促したり、聞いたりすることを心掛けている」。山田さんはそう話す。

   ◇   ◇

 「子どもたちに『何を言ったら先生が喜ぶか』と思わせない授業をつくってください」

 筑波大付属小(東京都)で10年以上、道徳の専科教員を務める加藤宣行教諭(56)は昨年末、自らが主催する研究会のグループワークで、参加した教員らにこう呼び掛けた。

 題材にしたのは高学年用の「ブランコ乗りとピエロ」。「寛容、謙虚」が主題だ。

 〈サーカス団のリーダーのピエロは、自分一人で目立とうとする新入りブランコ乗りのサムと対立していた。だが、ある日、演技後に全力を尽くして動けなくなった姿を初めて見て、サムの努力を認める。和解した2人は一緒に演技し、大成功を収める〉

 教員同士の話し合いが始まった。「謙虚というより、我慢することになっていないか」「ピエロを中心に書かれていて、サムも寛容になったことに子どもは行き着かない」。加藤教諭がアドバイスする。「衝突した時、片方だけが我慢してもうまくいかない。どうすれば、お互いが向き合い、認め合うことだと、子どもたちに気付かせることができるだろう」

 道徳の授業では「親切、思いやり」「規則の尊重」など、扱う価値項目を規定し、授業ではそれを主題にした読み物を使うことが多い。ただ「登場人物はどんな気持ちだったか」「なぜその行動をしたのか」といった、主人公の心情の軌跡を追い掛ける「読み物道徳」になりがちで、子どもたちが常識的な価値観を述べるだけの授業に陥ることが少なくない。

 グループワークの最後。あるグループは、2人の相違点と共通点を、子どもたちに考えさせる授業を提案した。みんなのことを考えているピエロと自分勝手なサム。どちらも「良い演技でお客さんを盛り上げたい」という共通点に気付かせ、「同じ目的があったから認め合った」との理解を深める狙いがある。

 加藤教諭は「教材は道徳的価値に迫るための一つのステップ。問いを工夫して、『良い子の発言』ではない、子ども自身の言葉を引き出すことが大切だ」と強調した。

 ◆読み物道徳 教科化を提言した中教審答申は、読み物教材の登場人物の心情理解のみに偏った授業を批判した。学習指導要領解説書は読み物を使う場合、主題となる価値項目を子どもが自分との関わりの中で考えるような指導を求めている。

 ◆議論する道徳 文部科学省は授業で特定の価値観を押しつける道徳の在り方を否定している。学習指導要領解説書に「答えが一つではない道徳的な課題を一人一人が自分自身の問題と捉え、向き合う『考える道徳』、『議論する道徳』へと転換を図る」と明記した。

=2017/04/09付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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