受験ルポ(1)挑戦 先生は現役大学生

塾で物理のテストを受けるタカシ(手前)。それまで化学を自習した後、机に突っ伏し仮眠していた=昨年暮れ
塾で物理のテストを受けるタカシ(手前)。それまで化学を自習した後、机に突っ伏し仮眠していた=昨年暮れ
写真を見る

迷い、答えを急ぐ君たちへ

 買い物客たちが行き交う西新商店街(福岡市早良区)。その一角に九州大の学生有志が運営する学習塾「九瑛舎(きゅうえいしゃ)」はある。一昨年12月に開設された。本年度は11人が大学受験に挑む。塾にとっても初めての本格挑戦となる。

 近くにある県立高校3年、タカシ(18)=仮名=の第1志望は九大工学部。1年生から毎年、夏休みにあるオープンキャンパスに通った。そこでまず、電子回路に出合い「電気情報工学科」を目指す。その後、ゲーム画像の設計に関わる「芸術工学部」へも心が傾く。

 「まだ迷っているんですよ」

 大学入試センター試験が2カ月後に迫った昨年11月中旬。左手甲にはその日、フェルトペンで「センター」と書かれていた。残された時間の中で、総合点を上げるためには、どう学習し、補講を選択するのがベストか。講師の大学生たちに聞き忘れないよう、学校で記したのだという。

 物理が得意教科で、理系科目は安泰だと高をくくっていたが、化学の成績がいまひとつ。苦手な文系「地歴公民」では地理を受験科目に選択しようと思っているが、その選択は妥当か。授業が終わると、大学生に次々と質問した。

 こんな悩みもあった。

 「分からない問題があると、先生には聞きにくい。頼りになる友達に放課後、教えてもらうんだけど、それからいつもだべってしまう。でも、友達は遊んでいるようで、テストの点数はいつもばっちり。どうすれば勉強に集中できるの?」

 焦りの色が見えた。

   ◇   ◇

 師走に入り、初志貫徹で工学部受験を決めた。

 その日は英語の授業だったが、タカシはただ1人、イヤホンで音楽を聞きながら、化学の問題集に向かっていた。

 帰宅して勉強すればいいと思うが、仲間と一緒の方が集中できるのだという。「捨てるところは捨て、大事なところを優先したい。もう時間がないから」

 塾の授業スタイルも変わった。問題演習が中心になり、1時間授業が1時間半へ。マークシートも使い始めた。

 大学生たちは、自身の受験体験を踏まえ、有効だった問題集から出題。30分で解く問題を、あえて一度3分削り、27分で解くよう求めた。残り3分の対処法を習得する狙いだ。

 英語と日本史を担当する文学部3年の佐々木漱(そう)さん(21)は「夏休みまでに、受験勉強のリズムをつかめた生徒はいいが、そうでない生徒も少なくない」。1浪して九大に合格した佐々木さんは、英語が苦手だったが、予備校時代に成績を伸ばした。失敗と成功から得たノウハウを伝えつつ、「今はみんな苦しいんだから」と繰り返した。

   ◇   ◇

 センター試験まで1カ月を切った。

 タカシは2学期、毎日午前6時に起床。学校では1時限前の補習「ゼロ時限授業」を受け、放課後は90分の補習。その後、塾でも午後10時まで学び、帰宅後も午前1~2時まで机に向かった。冬休みに入っても、塾の授業(午前9時~午後10時)は年の瀬まで続いた。

 佐々木さんは「この時期、みんな焦って答えを急ぐ。でも、そんなときこそ、丁寧に解説文を読み、じっくり頭に定着させることが大切」。英語の長文読解を担当する法学部2年の周礼旻(シュウリイミン)さん(19)は日本生まれの米国籍。「みんなずっと考え、詰め込んでばかりいるから、いかにちゃんと寝て、休むかも大きいよね」

 「いま何を、どうやるべきか、少し見えてきた」。「先輩モデル」でもある大学生と面談して、克服すべきポイントが見えてきたというタカシ。年が明け、センター試験(13、14日)は1週間後に迫った。

 ◆大学生の教育支援 大学生の教育支援活動は各地で広がっている。福岡県糸島市では夏休みの4日間、九州大の学生が中学生の勉強指導に当たる「伊都塾」が開催されている。同県宗像市では、福岡教育大の学生が地域の公民館などで放課後、勉強を支援する。いずれも地元大学と自治体が連携した取り組みで、地元の人材活用、大学側の地域貢献という双方の狙いがある。大学生が起業、自主運営する「九瑛舎」は、受験勉強の指導ばかりでなく、進路や将来選択の相談にも応じ、大手学習塾とは違った形で、受験生を後押ししようとしている。

=2018/01/07付 西日本新聞朝刊(教育面)=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]