受験ルポ(3)ネットで学ぶ 通信制からの挑戦

タブレット端末を使って英語の授業を受けるユキ。生授業配信では「挙手ボタン」を押して質問でき、英作文の添削も画面上で受ける=昨年11月、北九州市
タブレット端末を使って英語の授業を受けるユキ。生授業配信では「挙手ボタン」を押して質問でき、英作文の添削も画面上で受ける=昨年11月、北九州市
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不登校10万人超の時代

 AO入試の前日(昨年10月20日)。受験生のユキ(17)=仮名=は、北九州市の自宅リビングでパソコンの前に座り、東京にいるN高校の受験担当、熊谷桃子さん(29)と画面越しに向き合っていた。

 「文章の暗記では駄目。自分の素直な言葉で伝えてみて」。ビデオチャットで顔を突き合わせ、アドバイスする熊谷さん。こうしてユキは面接の練習を何度もしてきたが、不安がぬぐえず、本番前夜にも指導をお願いした。「普通の学校だったら、ここまで自分に時間を割いてもらえたのかな」

 中学3年生の時、親友だと思っていた友人に裏切られ、学校へ行けなくなった。自力で勉強し、北九州市内の私立高校の特進コース(全日制)に進学。しかし、友人とのトラブルもあり、高校1年生の3学期から再び不登校に。保健室登校もしたが「環境を変えよう」と2年生の夏、通信制高校に転入した。

 ユキにはCGデザイナーになる夢がある。だからこそ、大学に進学したい。ただ、多くの通信制高校は高校卒業をゴールとしていた。学校選びが難航する中、母親が見つけてくれたのが広域通信制のN高校だった。

 自宅のパソコンで好きな時間に授業を受ける。各科目の単元ごとに確認テストを受け、月に6~7回、ネット上でリポートを提出する。部活動もあり、ユキは美術部に所属。大好きなイラストを描き、投稿すると、プロのイラストレーターが添削をしてくれる。

 ネットを通じた勉強ばかりではなく、同校が主催するイベントにも参加した。長崎県波佐見町であった陶磁器作りの職業体験では、全国から集まった生徒たちと4泊5日で民泊しながら、マグカップをデザイン、作製、販売した。

   ◇   ◇

 受験モードになったのは3年生の春。大学受験を目指す「ネット特進コース」に入ってからだった。

 これまでの映像授業に加え、元大手予備校の講師らによる生配信授業を受けるようになった。朝からずっとパソコンに向き合う時間が増えた。でも、なかなか集中できない、やる気がでない。そんな時に利用したのが「ネット自習室」だった。

 「入室します。数学の宿題と、古文単語の暗記を19時半までやります」

 勉強を始める前、パソコンにそう打ち込み、自習を始める。その間、他の特進コースのメンバーと受験担当の熊谷さんのパソコン画面には、ユキの勉強する姿が映し出される。緊張感を持って勉強できる時間だ。

 熊谷さんとは毎月1回、個人面談。グループ面談も毎週受けた。いずれもパソコンを通したビデオチャット。グループ面談には、東京大や千葉大に通う現役大学生も「アシスタントコーチ」として参加。勉強の進み具合を随時報告し、励ましやアドバイスをもらった。

   ◇   ◇

 志望校は昨夏、オープンキャンパスに足を運んで、近畿大学産業理工学部に決めた。

 昨年11月10日。自宅に合格通知が届くと、ユキはすぐに、チャットを使い、N高の仲間に報告した。

 「第1志望に合格しました」

 「おめでとう!」「自分も頑張らないと! いい刺激になった!」

 特進コースの級友からのお祝いメッセージに、笑みがこぼれた。「N高に入って、一人で孤独だと感じることは一度もなかった。普通の学校で型にはまっていた時よりも、自分らしさが出せたと思う」

 不登校の小中学生は1990年代後半から10万人超が続く。高校卒業を迎えた子どもたちはこの春、どんな将来選択をしようとしているのか。パソコンの向こうに、そんな受験生たちの姿もあった。

 ◆N高校 出版やインターネット事業を手掛ける「カドカワ」が設立した「学校法人角川ドワンゴ学園」が運営する広域通信制高校。2016年4月に開校し、全国で4553人(昨年12月現在)が在籍する。ゲームクリエーターやライトノベル作家、イラストレーターなど、各界のプロによる「課外授業」が特徴。インターネット上の授業だけで高校卒業資格に必要な単位が取得できる「ネットコース」と、対面による教師の指導も受けられる「通学コース」がある。4月には通学コースの授業拠点となる福岡キャンパスが開校予定で、大手学習塾「英進館」(福岡市中央区)と業務提携し、大学受験に重点を置く「英進館クラス」も新設する。

=2018/01/21付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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