受験ルポ(4)学力の作法 脱テクニック

「コンプレックスを克服するには努力するしかない」と受験生たちに語りかける原田将孝さん=昨年12月27日
「コンプレックスを克服するには努力するしかない」と受験生たちに語りかける原田将孝さん=昨年12月27日
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「思考の流儀」伝えたい

 大学受験に向け、たった1人の講師が全教科を指導する私塾がある。福岡市中央区の雑居ビルの一室にある「GLS予備校」。校長の原田将孝さん(35)は福岡市出身。鹿児島市のラ・サール中学、高校を経て、東京大学文科一類に現役合格、同大法学部を卒業した。

 塾に通う約60人のうち、大学受験を控えた高校3年生や浪人生は約30人。東大をはじめとした難関大を目指す生徒が集う。原田さんは塾の経営から生徒それぞれの勉強計画の策定、日々の指導まで1人でこなす。

 塾には、学校のように机が並ぶ一斉授業ブースと、個別指導のブースがある。天井近くまで届く7段の本棚には、参考書や赤本(過去問題集)がぎっしり。生徒たちは、原田さんから指示された問題集などを解き、授業に臨む。

 原田さんは教室を回りながら、一人一人に声を掛ける。

 「ここは(三角関数の)cos(コサイン)を使って」「随筆はブログの昔バージョンみたいなもの」「なぜドイツの失業率が高いのかな」

 「難関大に合格する人と、しない人の違いは受験テクニックではない。学習の作法を身に付けているかどうかです」。原田さんはそう話す。

   ◇   ◇

 記者は昨年11月下旬、塾を初めて訪れた。実は原田さん、私の高校時代の同級生。幼少時代から人に教えることが好きで、同級生の多くは官僚や弁護士の道を志したが、2005年に東京都内で個人塾を始めた。

 「自分にしかできないことをやりたい。後悔するくらいなら自分でやろうと」

 受験勉強は、志望大学の過去問を徹底分析し、傾向と対策をつかみ、反復学習するのが一般的だ。世の中にあふれる参考書の中には、いち早く正解にたどり着くテクニックを紹介するものも多い。中学、高校入試でも、出題パターンをつかみ、機械的に覚えることで、ある程度は対応できる。でも、その後は伸び悩む生徒も少なくない。

 そこで原田さんが提唱するのが「学習の作法」だ。

 例えば、英語力アップに向けては、例文を頭の中に刷り込み、すらすらと訳せるまで徹底的に反復する▽定義や定理は、結論を覚えるだけでなく、なぜ結論に至るのか、道筋を説明できるようにする▽数学の応用問題は式やグラフを書き、分析しながら解く。頭の中でイメージしにくいものは手を動かして「見える化(可視化)」する…。

 首都圏の進学校や大手学習塾では当たり前のように指導され、生徒は自然に体得していく。でも、九州の学校や塾では、どうもその視点が薄く、思考の流儀の入り口やポイントを伝えたいのだという。15年から拠点を地元の福岡市に移し、これまでに東大に4人、国公立大医学部に11人が合格した。

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 浪人生のマサル(19)=仮名=は昨年8月、大手予備校からこの塾に転入した。学力差がある中での一斉授業に違和感があった。原田さんからは日々、学習内容を理解できているか、鋭い質問が飛ぶ。「聞かれると嫌なことばかり突いてくるが、雑な理解だったことに気付かされる」。やりとりを繰り返す中で、マサルは手応えをつかみつつあるという。

 センター試験を控えた昨年末、原田さんは受講生たちに本番での心構えについて約40分間語った。「将来の目標はあるけれど、かなえられない人たちを導き、大学に通すことができれば、世の中のためになる。君たちに未来を託している」

 2月25日からの国公立大2次試験まで1カ月を切った。20年度からの大学入試改革も絡み、センター試験の問題も変わりつつあるが、塾の風景も少しずつ変わり始めているようだった。

 ◆学習塾の数、九州では福岡県が最多 経済産業省の特定サービス産業実態調査(2015年)によると、福岡県には1728の学習塾がある。そのうち、集団指導は1252、個別指導は735(一部重複)。原田さんの塾が該当する、高校生以上を教える個別指導塾は475ある。九州各県の学習塾の数を比較すると、熊本県572▽鹿児島県570と続き、福岡県が他県を圧倒している。全国で最も塾が多いのは東京都で4075。

=2018/01/28付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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