受験ルポ(7)広域通信制 もう一つの双方向

事務所にあるスタジオで行われる授業。インターネットを通じて生配信され、講師は生徒たちの質問や反応に答えながら授業を進めていた=昨年12月、東京・銀座
事務所にあるスタジオで行われる授業。インターネットを通じて生配信され、講師は生徒たちの質問や反応に答えながら授業を進めていた=昨年12月、東京・銀座
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電脳教室はリアルに白熱

 「この問題は絶対出ますよ。分かっていない人は復習してくださいね」。電子黒板に表示された化学の文章問題を指さし、節田佑介講師(41)が正面のテレビカメラに語り掛ける。

 「なるほど」「(計算式で)割るの忘れてた…」「解説を聞くと難しくないな」

 授業を視聴する全国の受験生から寄せられたリアルタイムのコメントが、次々とパソコン画面に表示される。それを見た節田講師はすかさずアドバイス。

 「時間がなくて焦ると問題文にだまされますよ。焦らない、焦らない」

 広域通信制「N高校」=1月21日掲載=の生配信授業。センター試験を約2週間後に控えた昨年暮れ。東京・銀座にあるビルの小さな一室から冬期講習は発信されていた。

   ◇   ◇

 テレビ局のスタジオのような教室にはテレビカメラ2台と照明器具、音声・撮影スタッフ。授業は全国の生徒に無料で配信され、生徒は自宅や外出先でパソコンやスマートフォンで授業を視聴する。

 分からない所があれば「挙手ボタン」を押して質問。理解できれば「なるほど!」ボタンを押し、講師に伝える。問題への回答はアンケート形式で募り、答え合わせの時は参加者全体の正答率が表示される。

 映像授業だけであれば、大手予備校にもある。ただ、同校が重視するのは、講師と生徒の双方向性だ。講師は生徒が発するコメントを逐一拾いながら授業を進めるため、議論は盛り上がる。「学校では質問したことがなかったけれど、ここなら質問できるという生徒もいる」と節田講師は話す。

 生徒のつぶやきや脱線を含めて、授業が面白くなっていく姿は、通常の教室と同じだが、そこには「電脳教室」ならではの活気があるかもしれない。

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 この日、同じビルにある別の一室では同校の受験担当、熊谷桃子さん(29)が、受験生一人一人へのメッセージを色紙に書いていた。

 色紙の真ん中にはだるまのイラストと「必勝」の文字。これを1枚ずつ撮影し、PDFファイルにしてそれぞれにメールで送るのだという。

 全国にいる生徒の志望校は、地方の大学や東京の私立大、国立の医学部など多種多様。熊谷さんは、それぞれの大学の情報を細かく集めて対策を練り、電話やビデオチャットを通じて個々に指導してきた。

 昼間はアルバイトに追われ勉強時間の確保が難しい生徒、朝起きることが苦手な生徒…。生徒が抱える背景はさまざまで、まずは生活のリズムを整えることから指導した生徒もいる。

 「頑張らないといけない時に頑張りきる、という経験が一番大事だと思う」と熊谷さん。色紙にこう書き込んだ。

 「正しい努力は必ず身を結びます」

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 N高校が目指すものとは何か。上木原孝伸・副校長は「高校卒業を目標としない、その先を見据えた教育」と言う。

 一般的には「通信制=不登校の子どもが行く学校」というイメージが強い。同校も例外ではないが、学校に行けるけれど「積極的に行かない」生徒も少なくないのだという。

 自分のペースで好きな時間に勉強を進め、空いた時間で、自分の趣味や得意な分野の能力を伸ばす。課外授業として、プロによるプログラミングやイラスト、小説などの授業を受けられることが同校の強みでもある。

 N高3年生の一人はこう話した。「いろいろ批判される。だからこそ私たちが卒業した後、大学や社会でしっかり結果を出す。それで世間の見る目を変えたいんです」

 この道はどこへ続いていくだろう。

 ◆広域通信制高校 通信制高校には「広域」と「狭域」の2種類があり、広域通信制は三つ以上の都道府県から生徒を募集でき、高校の所在地以外の生徒が全国から入学できる。文部科学省によると、学校数は増加傾向で、1996年度には8校だったのが、2017年度には106校(公立1、株式会社立16、法人立89)となり、全国で約10万人が学ぶ。以前は働きながら学ぶ社会人が主だったが、現在は全日制からの転入や、中学校までの不登校経験者の割合が増えている。一方で15年、ウィッツ青山学園高校(三重県伊賀市)でお土産のおつり計算を数学の履修とみなすなど不適切な教育が行われていたことが判明。文科省は広域通信制のあり方を考える専門家会議を設置している。

=2018/02/18付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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