学び合い(1)小さな先生 教え込みではなく

自席を立ち、グループごとに集まり、プリントの問題を解く東光中1年の生徒たち=2月9日
自席を立ち、グループごとに集まり、プリントの問題を解く東光中1年の生徒たち=2月9日
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クラス全員が「分かった」

 2020年度から小中高校で順次実施される新学習指導要領に伴い、「アクティブ・ラーニング」と呼ばれる新たな授業手法が導入されようとしている。先生が教え授ける授業ではなく、児童生徒同士が話し合い、学び合い、教え合う場面を増やし「主体性、対話的で深い学び」(文部科学省)を目指す。
 授業の中で、児童生徒たちが4人程度のグループで話し合う場面は今もよく見られる。でも本当の意味で、生徒同士の能動的(アクティブ)な学びの場になっているかと言えば…。「学び合い」を指導の柱に掲げ、授業・学校改革に取り組む東光中(福岡市博多区)を訪ねた。

   ◇   ◇

 新任の有馬周作教諭(24)は2月上旬、1年生の教室で数学の授業に取り組んでいた。テーマは「空間図形」だった。

 ホワイトボードにタブレット端末の画像を映し出し、図形を使って説明を始めたが、10分足らずでプリント問題を解く学習に入った。

 生徒たちは思い思いに立ち上がり、前後左右で机をくっつけ合う。分からない子が質問し、分かっている子が答える、という状況になった。

 この日の図形問題には多くの生徒が苦戦した。

 「(全解答が)終わった人」がなかなか増えず、有馬教諭はしびれを切らしたように、何人かを集めて解説し始めた。

 子どもたちは皆、分からないことを分かりたいと思う。でも、どこの何が分からないかがうまく表現できず、立ち往生してしまう。先生も丁寧に、かみ砕いて説明するのだが。

 そんな時、同級生のひとことで疑問が氷解する瞬間がある。分かっている生徒は、困っている生徒に向け、有効な言葉や説明を発することで、より自身の理解を深めることにもなる。有馬教諭は、そんな授業場面を作りたかったのだが、容易ではなかった。

 50分授業が後半にさしかかると「終わった人」も増えた。

 「垂直」の意味がよく理解できない生徒に、ある生徒は両腕を十字に、別の生徒は直方体に近い消しゴムを使って、アドバイスしていた。

 問題を解こうとせず、ノートに落書きを続ける生徒もいたが、ある生徒が隣に座り、解説を始めた。「小さな先生」のようだった。

 終業チャイムが鳴ったとき、生徒22人のうち、1人だけ最後の1問が解けなかった。有馬教諭は「内容をつかみにくい単元で、全員がプリントを終わらせたかったのですが…」。改善点は少なくないようだった。

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 小学校で台形の面積や割合の問題でつまずき、算数・数学が嫌いになっていく子どもが少なくない。

 図形問題もその一つで、苦手意識を持ってしまった生徒には、どんなに指導力がある先生でも「あっ、分かった」「そうだったのか」の瞬間を生み出すことはたやすくない。

 別の日に取材した3年の英語の授業では、プリントの1問目から自力で解けなかった男子生徒が、別の生徒の説明を受け、時間内に解き終えた。

 その生徒は「1人でやっているときは全く分からなかった」。アドバイスを送った古賀世楽(せいら)さん(15)は「『分かる』と言ってもらったら、自分の自信にもつながる」と話していた。

 自分が分からないことが、分かった瞬間。それはもちろんうれしい。自分なりの説明で、分からない級友が分かるようになった瞬間にも、また別の喜びがある。それがクラス全員に広がったとしたら…。

 先生の役目も「指導者」としてばかりではなく、生徒同士の対話を深め、導く「ファシリテーター(司会進行者)」としての技量も問われているようだった。

 ◆学び合い 先生による一方的な教え込みではなく、児童生徒の双方向対話を通じ、より深い学びを実現しようとする試み。授業手法や提唱者の違いにより、「学びの共同体」「協同学習」といった実践法もある。東光中では上越教育大学(新潟県)の西川純教授の授業モデルを参考にしている。ただ、西川教授の手法では、先生は子ども全員が問題を解くための意義や課題を授業の冒頭に語り、解き方の説明はしない。東光中では、子どもたちの学習状況や行動を分析しながら、自校に合った実践を模索している。

=2018/03/04付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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