連携の春(3)幼少 園と学校にある"段差"

伊加利子鳩保育園の日野多賀美さん
伊加利子鳩保育園の日野多賀美さん
写真を見る
鎮西小の児童と一緒に給食を食べる伊加利子鳩保育園の園児たち
鎮西小の児童と一緒に給食を食べる伊加利子鳩保育園の園児たち
写真を見る

「褒める」から規律重視に

 小学校に入学した児童が先生の話を聞かず、騒いだり、教室を歩き回ったりして授業が成立しない…。「小1プロブレム」と呼ばれる。その対策として、各地で保育園・幼稚園と小学校の「保幼小連携」が進んでいる。保幼小の先生たちが連携を深め、それぞれの児童に合った指導やクラス編成を模索する。福岡県田川市にある「伊加利(いかり)子鳩保育園」の取り組みを紹介すると-。

   ◇   ◇

 「主体的な活動ができるよう(異年齢の)縦割り保育を始めるにあたり、小学校入学後はどう育っているのだろう。その疑問が発端でした」

 2年前まで主任保育士として園の運営に当たり、定年後も勤務する日野多賀美さん(62)はそう話す。

 社会福祉法人「伊加利区社会福祉会」が運営する保育園。重視しているのは、子どもたちの「自己肯定感」の育成だ。ちょっとみんなと違う行動も受容し、好ましい行動を褒める。それが規範意識を芽生えさせ、小学校生活にもつながると考える。

 ところが、小学校はどちらかと言えば、はみ出しを許さず、みんな同じ規律行動を求める傾向が強い。

 確かに、保育園・幼稚園と小学校ではかなり環境が違う。45分刻みのチャイム、教科書、対面式の一斉授業、施設の広さなど、たぶん子どもたちにとっては、大人が考える以上に「大きな段差」だろう。子どもたちが戸惑うのも無理はない。

 日野さんたちは、地元の鎮西小学校に呼び掛け、2004年度から先生同士の意見交換会を始めた。互いの本音を語り合おうと、夜に懇親会も開くようにした。

   ◇   ◇

 「最近の子どもたちはアナログ時計が読めない」「100円玉1枚と10円玉7枚だと、大半の子が10円玉7枚を欲しがる」

 小学校の先生から指摘され、気付かされることも多い。保育園にアナログ時計を置き、園のイベントでも買い物の場面を設けた。

 逆に提案もした。小学校ではグリーンピースが苦手な卒園児に「あと10個食べなさい」と指導しているという。「歯も生え替わりの途中だし、味覚は発達段階。園ではにおいをかいだり、なめたりするだけにとどめてきた」。頭ごなしの指導ではなく、配慮を求めた。

 08年には、卒園児が鎮西小に通う近隣4園も加わり、学習グループ「ひまわりの会」を発足させた。年に2回勉強会を開催。小学校教員が保育士の仕事を体験▽学校給食の試食会▽中学校との合同芋掘り-などにも取り組む。

   ◇   ◇

 「45分の授業中、座っていられるようにして」「文字くらい読めるようにしておいて」「遊ばせるばかりではなく教育も」

 小学校の先生たちから、保育士はよくそう責められる。

 ただ、ひまわりの会の勉強会にも参加している近畿大九州短期大の垂見直樹准教授(教育学)は「幼児期から小学校への移行は多くの先進国でも大きな課題。6歳児に学校生活のストレスは強く、発達段階に即していないという指摘もある。子どもに合わせるという発想を持たずに学校環境への適応を強いる、小学校の指導には再検討の余地がある」。

 保育園といえば、待機児童問題や保育士の人手不足などの問題がクローズアップされがちだ。でも、もう一つ、「保幼」と「小」の教育観の違いもあり、それが子どもたちの戸惑いにもつながっている。

 「保育園と小学校が互いの文化をもっと知る必要がある」。日野さんは、小学校の先生たちと話しながらそう思う。そしてこの保育園の理念を思い返す。〈いつまでも見守ります〉。小学校でもそうあってもらいたいと。

 ◆保育の目標 厚生労働省の「保育所保育指針」によると、人間形成にとって極めて重要な時期に、その生活時間の大半を過ごす場として保育所を定義。(1)十分に養護の行き届いた環境、くつろいだ雰囲気の中で子どものさまざまな欲求を満たし、生命の保持と情緒の安定を図る(2)生活に必要な基本的な習慣や態度を養い、心身の健康の基礎を培う(3)人に対する愛情と信頼感、そして人権を大切にする心を育てるとともに、自主、自立と協調の態度を養い、道徳性の芽生えを培う-などを目標にしている。昨年4月1日時点で、保育所や認定こども園を利用している全国の子どもは255万人だった。

=2018/04/15付 西日本新聞朝刊(教育面)=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]