連携の春(4)人事交流 中学から高校の教壇へ

1年1組の授業で数学の学びの流れを説明する森永教諭。「君たちは新たなスタートラインに立っている」=13日
1年1組の授業で数学の学びの流れを説明する森永教諭。「君たちは新たなスタートラインに立っている」=13日
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いつからでもやり直せる

 ブレザーの制服の袖は目いっぱい長い。折り目がない教科書に氏名を書くことから新学期は始まった。

 「おはようございます」。博多工業高校(福岡市城南区)で数学を教える森永明子教諭(45)が13日、1年1組の教壇に立つと、全員男子の生徒40人から野太い声が響いた。

 森永教諭がまず黒板に記したのは「美」の1文字だった。「数学1」の教科書をめくると、意外にもオーロラや太陽、飛行機、パラボラアンテナなどの写真が並ぶ。「何でだと思う? 美を追究すると数学にたどり着くからなんだよ」

 授業が本格化する翌週を前に、数学の面白さと実生活との関わりをこの初日、ちゃんと伝えたかった。

 「だからノートは黒板のコピーではなく、自分の考えを書く」

 もともと中学校の先生。異校種間人事交流制度を知り、希望して6年前の春、この高校に着任した。

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 福岡都市圏の公立中で15年勤務したが、気になることがあった。希望の高校に進学したはずの教え子が、2、3カ月すると必ず相談にやって来るのだ。担任や級友との人間関係の悩み、部活動への不満だったり、「文系と理系って何ですか?」といった疑問も。気掛かりだったのはその内容より、沈んだ表情。「いまの高校ってどんな所?」。そう素朴に思ったのが発端だったという。

 着任して驚いたのは生徒たちの「学力格差」だった。公立中とは違い、入試で選抜されているので、学力水準は一定層でまとまっていると思っていた。ところが現実には中学校以上に中間層が薄く、クラスを習熟度別に二分し、複数教員で指導に当たっていた。「中学校での学びの積み残しとはこのことか」

 ただ、初めて勤務する工業高校は新鮮でもあった。進学してくる生徒は主に3タイプに分けられる。(1)ものづくりへの憧れ(2)普通科の勉強は大変そう(3)家計の事情を考えると…。生徒の約8割は就職するが、大学に進学する生徒もいれば、歌やダンスの道を目指す生徒もいる。

 「みんな誠実で、これから社会に出て行こうとする使命感があってね。私を含め中学校の先生って、就職という選択肢をネガティブ(否定的)に捉えすぎていた」

   ◇   ◇

 森永教諭は、九州工業大情報工学部(福岡県飯塚市)で制御システムを学び、自動車会社に就職しようと考えていたが、アルバイトをしていた学習塾で教職への道を勧められ、今がある。「進路多様校」とも呼ばれる工業高。生徒たちの人生にもこれから、いろんな出会いや分かれ道があるだろうと思う。

 本年度から中学校に戻る予定だったが、学校改革に関わっていることもあり、異動は延期され、新カリキュラム策定に追われている。生徒たちの多様な進路を実現するため、数学、物理、英語などの授業こま数を見直し、より幅広い履修コースを設けようとしているのだという。

 この日は中学校の学習を振り返りながら、こんな話もした。

 「数・式-関数・方程式-図形-統計。数学って、こんなふうにグルグル回りながらスパイラル式に学んでいく。小中高校の学びも実はつながっていて、いつからでもやり直しができる。だから心配しなくていい」

 「学び直すべきは、教科内容そのものより、むしろ学ぶ姿勢や理由、教科に対する興味の持ち方だ」と最近、思うようになったという。

 この高校での体験を、やがて復帰する中学校の同僚に語っていこうと考えている。「進路指導にあたっても、生徒たちにもっと多様な声掛けができるんじゃないかな」

 小中高の垣根を越えた人事交流。それは先生自身の学び直しの機会にもなっているようだった。

 ◆異校種間人事交流制度 小中高校の垣根を越え、先生が異動する制度。小学校から中学校へ異動したり、逆のケースもある。別種の学校に勤務することで、学校文化の違いを互いに学び、学校改革や専門教科の指導力向上につなげる狙いがある。原則として期間は3~6年で、元の校種の学校現場に戻る。福岡市では2009年度から制度を導入。市立小中高校に約5千人の教員がおり、年間10人前後(管理職を除く)が異校種の学校に転任している。

=2018/04/22付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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