討論型の主権者教育へ 新科目「公共」 福岡市でモデル事業

あるグループは4候補の主張に基づき、それぞれの違いを座標に位置付けた
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「カフェ方式」に熱視線

 選挙権年齢が歳以上に引き下げられ、高校では2022年度から、主権者教育に向けた新科目「公共」が必修化される。どんな授業になるのか。福岡市で4月、あるモデル授業があった。法教育に取り組む九州弁護士会連合会などが企画した。

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 この日のテーマは「格差と貧困」。県内各地から高校生56人が参加した。(1)4人程度のグループに分かれて議論(2)衆院選を想定した4候補の主張を聞き、討論・分析(3)模擬投票-という流れだった。

 授業を進めたのは国仲瞬さん(25)。沖縄県を訪れる修学旅行生らを対象に、ワークショップ形式の平和学習プログラムを実践している。自らが運営する会社「がちゆん」は、沖縄の言葉で「本気で対話する」という意味だという。

 格差や貧困をどんなところで感じるか、その原因は、格差は是正されるべきか…。そんな素朴な問い掛けからグループ討論が始まった。

 でも、遠慮もあって、いきなり議論は盛り上がらない。国仲さんは「(視点を)下げて上げたり、上げて(もっと)上げたり、いろんな主張の仕方がある」。他の人の意見や視点をてこのように使いながら、自己主張を際立たせるこつを伝えた。

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 「格差と貧困」が争点となった仮想衆院選に立候補した4人の立会演説会が始まった。4候補の主張=別表参照=は一長一短で、高校生たちは悩ましそうだ。

 そこで国仲さんが提示したのが「政策観点評価」の手法。例えば「縦軸に政策コスト、横軸に優先度」という指標を設け、4候補の立ち位置を決めていく。選挙の構図を可視化する狙いがある。

 やがて高校生は移動を始めた。グループ内ばかりではなく、他の考え方にも触れるためだ。「ワールドカフェ方式」と呼ばれる手法で、メンバー入れ替えが2度あり、元のグループに戻って再度話し合った。

 投票結果はA候補=1票▽B候補=23票▽C候補=27票▽D候補=5票。「子どもがいてもいなくても、誰もが和やかな時代へ」と訴えたC候補が競り勝った。

 通常の授業はこれで終わるが、国仲さんは「これってゴールですか。むしろ大切なのは投票後。C候補のどこが評価されたのか。欠点や疑問はないか話し合ってみよう」。選挙結果の再検証を求めた。

 生徒からは「具体策がまだ見えない」「消費税だけで財源は足りるのか」「低所得者支援の基準や線引きは?」といった意見が発表された。

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 モデル授業は新鮮で、生徒を引率した各地の高校教諭からも熱視線が注がれた。修猷館高校(福岡市)で公民を教える宗弘昭教諭(58)もその1人だったが、腕組みをしていた。

 生徒同士が多様な意見に学び合う「ワールドカフェ方式」は興味深いものだったが、約2時間を要した。「高校の限られた時間割の中では、こんなには手間暇を掛けられない」。旧来型の50分刻みの授業ばかりではなく、時には90分授業や2時限連続授業もあってもいいと思うが、そう容易ではなさそうだった。

 「生で身近なテーマを課題に、議論の手法を学んでいくのは大切だと思う。ただ、高校の授業では政治的中立性も求められる」。討論重視の主権者教育にも取り組んでいるが「議論の土台となる基礎知識の習得が、どこかおろそかになっているようにも思う」とも話す。

 旧来の知識注入型ではなく、アクティブ・ラーニング型(生徒同士の討論重視)の主権者教育とはどんな姿か。先生たちもまだ、模索の途上にあるようだった。

 ◆ワールドカフェ方式の話し合い テーブルを4人程度で囲み、中央には白紙の模造紙。筆記役が、出てきた視点やキーワードを順次メモしていく。一定時間話すと、1人を残して他のメンバーは別のグループに分散移動して再び話し合う。一つのグループ内の議論だけでなく、互いのグループで出た視点を共有する狙いがある。会議室での会議とは違い、カフェのような雰囲気から自由な発想を引き出そうと、1995年に米国で生まれ、各地で広がっている。

=2018/05/20付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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