かけがえのない個人を認める 「イエナプラン教育」目からうろこ

オランダの小学校でサークルになって話し合う子どもたち(久保礼子さん提供)
オランダの小学校でサークルになって話し合う子どもたち(久保礼子さん提供)
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日本イエナプラン教育協会の代表理事を務める元中学校教諭の久保礼子さん
日本イエナプラン教育協会の代表理事を務める元中学校教諭の久保礼子さん
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「異年齢混合」で主体的な学び

 学級担任や進路指導では親身になって生徒に関わった。「子どもが学校に行かない」という連絡を保護者から受けると、すぐに家に駆け付けて子どもと話をした。高校受験前の放課後には、自習する生徒を見守りアドバイスもした。

 福岡県宗像市などの中学校で32年間、社会科教諭として勤務した久保礼子さん(62)は、教師として“真っすぐ”だった過去を振り返りつつ、自省の言葉を口にする。

 「どんな人も、たった一人のかけがえのない価値がある。でも、実践してきた授業や指導はその価値を尊重してきただろうか」

   ◇   ◇

 経験を積み、生徒や保護者との関係が密になると、久保さんの顔色をうかがう生徒も現れた。不機嫌な態度を示すと、多くの生徒は姿勢を改めた。落ち着いた学級で、生徒たちは自分の思いを受け入れているかのように思えた。

 しかし40代後半で着任した中学校では、同じ指導が通じなかった。反発する生徒たちを大声でしかり、力で押さえ付けようとした。毎日が苦痛になった。初めて経験する大きな挫折。「(教師を)辞めたい…」。強くそう思った。

 悩みの中で1冊の本に出合う。福岡県出身でオランダ在住のリヒテルズ直子さんが現地の「イエナプラン教育」を紹介していた。教員が管理せず子ども自身が主体的に、共に学ぶ教育という。「そんなことって」。まるで想像できなかった。

   ◇   ◇

 研修制度を活用し2007~08年度、休職して福岡教育大修士課程で研究することにした。オランダにも約2週間行った。そこで見た現地の学校の風景は目からうろこだった。

 小学校では3学年の児童が1学級で編成されていた。日本では後ろ向きに捉えられがちな「複式学級」を、逆に戦略的な「異年齢混合学級」として位置付けていた。一人一人の違いが当然視され、自然に生まれる学びが、そこにはあった。

 児童は国語や算数などの教科を自分の計画に沿って学習。それぞれ異なる学習をしている途中で、同年齢の児童が先生の周りに集まり短時間の一斉指導を受ける。理解した児童は自席に戻り練習問題をし、終われば自らの課題に戻る。理解できてない児童は先生が分かるまで教える。理解速度の違いが容認されていた。

 学びの中核は、自らの興味や疑問に基づく探究学習だ。1年間に学校が決める九つのテーマに対し主にグループで取り組む。ここで探究の方法を習得し協働の練習もしていた。

 学級全員がサークルになり、対話をする時間は1日に何度もあった。子どもたちはよく発言するが、低学年だと声は小さく、態度はもじもじ。先生は児童の声の大きさを正しはしない。ただ、級友の話を聞かない態度は厳しく指導する。日本では近年、プレゼンテーション力(発表・表現力)などが脚光を浴びるが、ここで重視されるのは「聞く力」だった。

   ◇   ◇

 09年に中学校に復帰すると、できることを始めた。授業でドイツにファシズムが広がった背景を理解させるため、当時の社会状況をかみ砕いて説明し、ヒトラーに1票を入れるかどうかを考えさせた。生徒同士が対話を通じて主体的に学ぶ「アクティブ・ラーニング」の先駆けだった。

 短い期間だったが、学校現場での実践を踏まえ、退職後、一般社団法人日本イエナプラン教育協会(東京)の結成に携わり代表理事に就いた。昨年、オランダを再訪。中学校をのぞくと、子どもたちが活発に議論していたテーマは「トランプ米大統領は北朝鮮を攻撃するべきかどうか」。学びを今につなげる取り組みが繰り広げられていた。

 日本での活動は始まったばかり。来春には、イエナプラン教育を実践する国内初の小学校が長野県に開校する予定だ。「この教育は手法をまねればできるわけではなく、大切なのは理念」。同校はその拠点となる。

 今の先生たちに最も伝えたいことは何だろう。久保さんは迷わずこう答えた。「子どもは自ら学ぶ存在。こうあらねばならないという方向に縛られず、自由な発想で子どもを見てほしい」

イエナプラン教育 創設者はドイツ人の教育哲学者ペーター・ペーターゼン(1884~1952)。1970年代にオランダの小学校で3分の1が落第する事態が起き、子どもの発達速度の違いや学習法の多様性を認めようという動きから、イエナプラン教育が広がった。現在、公立、私立合わせ、220校ほどが採用しているという。異学年での学級編成、子どもが安心して過ごせる教室という特徴のほか、時間割はサークルになっての対話▽教科や探究的な学習▽リラックスできる遊び▽学習の成果を発表し誕生日を祝う催し-という四つで編成されている。

=2018/08/05付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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