医学部受験(1)浪人生 渦中に本番へ

全国を揺るがした医学部入試の不正。女子生徒や浪人の受験生はどのような思いで試験に臨むのか
全国を揺るがした医学部入試の不正。女子生徒や浪人の受験生はどのような思いで試験に臨むのか
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 昨年、東京医科大に端を発し全国の大学で明るみに出た医学部入試の不正問題。女子や浪人の受験者の得点を操作するなど、入試制度の根幹を揺るがす事態に衝撃が走った。大学側の公表の遅れや不合格者の追加合格に伴う募集定員の減少など、その不信感と影響は日を追うごとに膨らむ。余韻の冷めやらぬ中、始まった今年の医学部受験。渦中の女子受験生や浪人を重ねた「多浪生」らは問題をどう受け止め、どのような思いで試験に臨むのだろうか。

入試“差別”に疑問や憤り

 福岡県内の私立高を卒業し、1浪中のサヤカ(19)は一連の報道に「何となくそう思っていた」。加えて「正直なところ医学界での女性差別は仕方ない」とさばさばした表情だ。男女平等という大義名分はあるにしても女性が医師になり結婚し、妊娠、出産、育児と続く中で長期間休みを取ることは避けられない。

 「男性が多いほど、病院は円滑に運営できるのではないか」とサヤカ。ただ、入試で“差別”するやり方には疑問がある。「医師の男女比を調整したいのであれば国家試験でもできる。人材を集める大学入試の段階で狭めるべきではない」。どうしてもというのなら大学側も合格者の男女比を考慮していると事前に明らかにするべきだと思う。

 問題が明らかになったことを受け、サヤカは「差別されない」大学を受けるつもりだ。目指しているのは仕事と家庭の両立を支援する制度が充実し、保育所などが整備されている国立大。「女性の働きやすさをアピールしているのだから、きちんとした選抜をしてくれそう」と願う。

 1浪中のミユキ(19)は不正入試に納得できないでいる。救急医療の現場など体力面を考えれば、男性医師が必要という理屈は理解できる。だからといって、女子受験生の努力を無にする理由にはならない。文部科学省は実態把握のために調査し結果を公表したが、大学側を監視し続ける仕組みはない。「差別をゼロにするのは無理なのでは」。ミユキの疑念はぬぐえない。

「人となり」丁寧に評価を

 一方、得点調整の標的にされた多浪生。3浪中のショウヘイ(21)は不正を指摘された私立大を過去に受験した。大学側の意図を推測し「無意味に差別しているのではないと思う」と語る。浪人生には不合格や進路変更といった挫折の経験がある。再チャレンジを無駄と思ったことはないが、命を預かる医療現場で失敗は許されない。現役生がストレートで“一発勝負”を勝ち上がっている以上「失敗を重ねた多浪生より優遇されることに一理はある」と言う。

 とはいえ、自身も4度目の挑戦。「勉強した時間は現役生よりも圧倒的に多い」と自らを奮い立たせつつも「1問の出来で人生が決まると思うと、やはり緊張する」と自信が揺らぐ。

 親が医師で幼少から医師という仕事を意識してきた5浪目のシンイチ(23)は「多浪生を敬遠したいという気持ちも多少は分かるが…」。どこか釈然としない。

 自身の浪人生活を振り返ると、多浪生に対する世間の風当たりの強さを確かに感じた。「浪人生は目標の大学を目指して一生懸命やっている。人となりもきちんと評価しないで、一律に切り捨てるのはどうなのか」とやりきれない思いを口にした。

平常心保ち試験に臨む

 昨年末以降、10人前後の浪人生に話を聞いたが、一連の入試不正について驚きを持って受け止めた人は1人もいなかった。むしろ1浪中のススム(19)は「昔から私立大は金を積んだり、親族にOBがいたりすると有利だと聞いたことがある」と声を潜めた。

 現役受験のころ、ある私大医学部を受ける友人が「親の母校なので推薦入試で20点もらえる」と話していた。友人は結局不合格だったといい、真偽は不明だ。ただ、そういった風聞も「得点操作に結果が左右されない点数を取ればいい」という覚悟で乗り越えようと思っている。

 国公立大医学部に加え、私大の多くも活用する大学入試センター試験まであと1週間。例年以上に多くのまなざしが、医学部入試に注がれる。順調に成績が上がっているというススムは「今の自分なら大丈夫」と言い聞かせ、平常心を保つように心がけている。

 =文中仮名

医学部入試不正 文部科学省の幹部職員が東京医科大に便宜を図る見返りに、息子を合格させてもらったとされる贈収賄事件を契機に発覚。昨年8月、東京医大は特定の受験生への不正な加点のほか、女子や長期浪人生を得点操作で実質減点していたことを明らかにした。文科省は同12月、全国調査の結果、同大や福岡大など9校で不適切な入試を行っていたと認定。福大では一般入試と推薦入試で高校の調査書評価の際に現役生を優遇、浪人生よりも最大20点の差をつけていた。柴山昌彦文科相は、過去の入試で不合格となった受験生の追加合格に伴い、大学が今年の募集人員を減らす影響を緩和するため、募集減を今年以降最長で6年に分散させることを認めると発表した。

=2019/01/13付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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