医学部受験(2)予備校 経営者の視線

予備校の本棚には医学部の過去問題集が並ぶ
予備校の本棚には医学部の過去問題集が並ぶ
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 九州で医学部受験専門の予備校を経営する下村仁志さん=仮名=に、全国の医科大、大学医学部で発覚した不正入試の驚きはなかった。「業界では公然の秘密」。大学によって女子や浪人生が不利になったり、卒業生の子女が優遇されたりするとの話は以前から絶えなかったからだ。

 西日本地区にある大学では、入学を希望する「卒業生の子女」の名簿作りが励行され、対象者には点数の上乗せがあったと話す卒業生がいた。合否ラインにひしめく医学部受験生には、わずかな加点も影響する。

 私立大医学部は6年間に2千万円を超える学費が必要で、5千万円近くかかるケースもある。受験生の中には親が地域医療を支える高収入の開業医も多く「跡継ぎ」への期待は大きい。「補欠合格できるから寄付をしてもらえませんか」。かつて大学の関係者から1口数百万円の寄付を求め自宅に連絡があったと証言する医師の子も、またいた。

 予備校の「腕の見せどころ」は出題分析にとどまらず、各大学のこうした“傾向”をも熟知した上で、受講生それぞれに合った進路を示すことだという。

文科相発言で風向き変化

 しかし昨年10月、柴山昌彦文部科学相が記者会見で述べた一言で風向きが変わった。「受験生が適正で公平な試験を来年受けられることを担保することが何よりも重要だ」。一部の大学と予備校にとっては軌道修正を迫る言葉だった。

 多くの医学部入試では1次の学科試験を経て、2次試験で面接が課せられる。今回発覚した不正に下村さんは「正攻法で男女の得点に差をつける方法はいくらでもある」と打ち明ける。

 受験生には一定の特徴があり、こつこつと勉強するタイプの多い女子は幅広い知識を問う問題が得意。男子は数学や物理の超難問にひらめきで答えられる傾向がある。問題の内容を変えたり、選択科目ごとの難易度に差を設けたりすることで合格者の男女比率を調整できるというのだ。

 国立大志願者で不合格になった受験生を獲得するため、選択科目の傾向をほぼ同じにする私立大もある。「優秀な生徒」を獲得するための戦略として確立されてもいるという。

 面接試験でも、離島勤務をいとわず大学病院で長く働いてくれそうな人など、適性判断に「大学側の都合」が作用するのは医学部に限ったことではない。ただ、問題発覚後も各大学の評価基準は曖昧で「何がどう変わるか、あるいは変わらないのか見通せない」と下村さんは言う。

「必要悪」容認姿勢を反省

 「女子差別って来年以降も続きますかね」

 下村さんは昨年、女子受講生からそう尋ねられ、口ごもった。受講料が割高な医学部予備校は一般的な予備校に比べて高い結果が求められる。そのために集めた現役生や男子を優遇するなどの大学情報も、どこか「必要悪」として容認してきた感覚は否めない。

 不正を指摘された大学が長年の慣例を改善できるか疑問は残る。それでも世間の厳しい目が注がれる中、そのままであるはずはないとも思う。

 「今年に限れば、どの大学も実力勝負になる。突破には愚直な学びが鍵になる」。自らにそう言い聞かせ、受講生には過去の問題を徹底的に解かせるなどした。目の前で机に向かう女子受講生や多浪生を見ながら「医学界への入り口で差がつくのはやはり不公平だ」と、今は思っている。

“医師になる”志と覚悟を

 なぜ医学部に行きたいのか-。昨年9月、福岡市のGLS予備校では、医学部を目指す約10人の受講生に志望動機を全員の前で発表させ、受講生同士で問答も行った。初の取り組みで受講生はレポートを提出し、しっかりとした動機を練り上げて発表に臨んだ。

 医学部受験生の中には周囲の雰囲気や親の期待という理由で目指す人もいる。浪人を重ねれば諦めが付かず、合格しない限り引くに引けない状況に陥りかねない。

 試してみると、きちんと志望理由を考えていた受講生ほど、その後の成績の伸びを感じられるという。原田将孝校長(36)は「差別をはね返して医師になるためにはなりふり構わずやる“志”が必要。覚悟を持たせることが結果につながる」。競争率の高い医学部受験に近道はない。学力を身に付け、どうモチベーションを高めるか。現場の模索は続く。

医学部の入試倍率 医科大、大学医学部は他の学部系統より倍率が高く“狭き門”と言える。大手予備校河合塾の集計によると、2018年度入試で私立大医学部系統(一般、センター試験利用の合計)の倍率(志願者数÷合格者数)は18.6倍で、全体(4.1倍)の4倍超。国公立大医学部系統も前期日程4.5倍(全体2.8倍)、後期日程14.8倍(同7.6倍)と高かった。志願者数は私立大で横ばい、国公立大は減少傾向が続いているという。19年度入試は、一連の入試不正に伴って追加合格者を出す大学もあり、募集人員減などの影響が出ている。

=2019/01/20付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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