医学部受験(3)大学 変革できるか

センター試験開始前、励まし合う受験生=19日、福岡市の九州大伊都キャンパス
センター試験開始前、励まし合う受験生=19日、福岡市の九州大伊都キャンパス
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 報道陣を前にマイクを握った大学関係者は繰り返した。「(浪人を重ねた)多浪生の入学を抑制するという考えは一切なかった」。医学部の不正入試問題は九州にも波及し、文部科学省から「不適切」と指摘を受けて福岡大は昨年12月、同大で記者会見を開いた。

“世間の非常識”を強弁

 大学側が認めたのは、受験生の高校時代の成績が記された調査書について、2次試験で使用する際の配点を現役生は20点満点、1浪生は10点満点で評価し、2浪生以上は一律0点としていた点だ。

 医学部一般入試1次の筆記試験は数学と英語、理科2教科のみ。その他の科目は高校時代の評定平均値などで測ろうと、調査書を2次試験の採点対象にしていた。ただ「卒業から年数がたつほど調査書の信用性が低くなると考えた」(黒瀬秀樹教学担当副学長)ため、浪人を重ねるほどに点数を低く設定していたという。

 2次試験は面接と小論文、調査書で本来は50点満点。実質、1浪生は2割減、2浪以上にいたっては4割も減点されていた。それでも大学側は記者会見で「浪人生を減点していたわけではない」「福大なりの考え方の基に行っており、決して不当ではないと考えていた」と強弁。加えて「逆説的に言うと2年、5年、8年の浪人であろうが全く一緒の状態での受験。以前から福大は浪人生に人気と言われている」(朔啓二郎医学部長)とも述べた。

 こうした発言に、足元の福大病院の現役医師もあきれかえった。「医学界の常識は世間の非常識だ」

「離職、国家試験=免罪符」ではない

 文科省が指摘したのは全国10大学。福大のように浪人生を差別していたケースや、女子受験生を冷遇、あるいは卒業生の親族を優遇する大学もあった。

 不正を「常識」としていた一部大学の言い分はいくつかある。女子冷遇の理由に挙げたのは医師不足の問題だ。女性は結婚、出産、育児などに合わせて休職するケースが少なくない。福岡県内の男性医師は「深夜でも緊急の呼び出しがある。駆けつけられない医師は戦力にならない」と話し、現役の女性医師も「休職で迷惑を掛けざるを得ないのが申し訳ない」とこぼす。

 ただ、医師不足問題に詳しい信友浩一九州大名誉教授(医療システム学)は「離職を理由にするのは単なる問題のすり替え。言語道断だ」と厳しく指摘する。

 浪人生についても、ある大学医学部関係者は「経験則から多浪生は留年率が高く、国家試験の合格率も低い」と語る。

 医学部を挑戦し続ける多浪生は、結果的に行きたい大学より行ける大学を選ぶことが多い。大学には補助金カットの目安となる70%以上の国家試験合格という至上命令があり、学生は在学中、必修科目を1単位でも落とせば即留年など緊張感を強いられる。「大学合格に力を注ぐあまり入学後、集中力を維持できない多浪生が目立つ。そうならないためにもぶれない目標が必要だ」と話した。

厳しい目にどう向き合うか

 今月19~20日、全国で大学入試センター試験が実施された。1浪中のミユキ(19)=仮名=は「試験前日はこれで人生が決まると考え込んで眠れなかった」と苦笑い。ただ、最初の科目の地理歴史・公民が始まると集中できたという。「これで落ちても悔いはない」とすっきりした表情を浮かべる。

 浪人してじっくり自分と向き合う時間ができたことで、医師を目指す思いが明確になり、強まった。面接試験では「自分の持ち場で精いっぱいやる。『取ってもらえたら(大学側に)絶対後悔させません』と思いを伝える」と意気込む。

 4浪中のショウタ(22)=同=は好調だった模試受験時と同じように栄養ドリンクを飲んで試験会場に向かった。数学でつまずきかけたが「焦ったときが一番のヤマ場」と思い直し、冷静さを失わなかった。センター試験には手応えがあるといい「多浪生差別は正直気になるが第1ステップは越えた。あとは結果を出せるよう、必死にやるだけ」と気を引き締める。

 医学部入試不正問題で、指摘された大学には助成金減額のペナルティーが科せられるなど、問題は入試シーズンに入った今も尾を引く。公の場で「公平性が欠けていた」(福大)と頭を下げた大学は、受験生とどう向き合うのか。その対応に国民の厳しい目が向けられている。

医師への道 医師になるには、医学部に合格してからも長い道のりがある。6年間の医学部での勉強を経て、医師国家試験に合格。その後、2年間以上の臨床研修を経て、医師となる。厚生労働省によると、昨年の医師国家試験の合格率は90・1%(新卒と既卒の総数)。過去10年を見てもおおむね9割の横ばいで推移している。九州7県の大学は、九州大89・9%▽佐賀大94・9%▽長崎大87・8%▽熊本大89・6%▽大分大90・7%▽宮崎大87・2%▽鹿児島大90・0%▽久留米大83・3%▽福岡大82・1%▽産業医科大94・8%。

=2019/01/27付 西日本新聞朝刊(教育面)=

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