【フクシマの教訓】(6)どうなる「40年廃炉」 何もかも規制委任せ

老朽化が進んでいる玄海原発1号機。原発運転を「原則40年に限るべきだ」とする細野豪志原発事故担当相。下は原子力安全・保安院が開く高経年化の意見聴取会
老朽化が進んでいる玄海原発1号機。原発運転を「原則40年に限るべきだ」とする細野豪志原発事故担当相。下は原子力安全・保安院が開く高経年化の意見聴取会
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 「40年の運転制限は必要だ」。15日朝、原発事故担当相、細野豪志は記者団に繰り返した。

 前日、民主、自民、公明3党は原子力の安全規制を新たに担う「原子力規制委員会」の設置関連法案について最終合意した。原発推進の意見が根強い自民に配慮し、原発の運転を原則40年に制限する規定については、発足後の規制委が速やかに見直しを検討する、と修正された。

 細野は制限規定の重要性を強調するが、原発政策の大転換といえる「40年廃炉」方針は骨抜きにされないか-。

 すでに、政府方針と矛盾するような動きが起きていた。九州で最も古い1975年に運転を始めた九州電力玄海原発1号機に関して、である。

 「1号機に残っている試験片を九電に出させて、解析し直すべきだ」

 昨年12月。運転開始から年月を経た原発の安全性をテーマに開かれている原子力安全・保安院の意見聴取会で、東京大名誉教授(金属材料学)の井野博満は主張した。

 原子炉を覆う鋼鉄製の圧力容器の劣化状況を知るために、各電力会社は容器内に、容器と同じ材質の試験片を入れ、定期的に取り出して検査している。試験片で計測するのは「脆性遷移(ぜいせいせんい)温度」。金属はある温度以下になると粘り強さが失われ、小さな衝撃でも壊れやすくなる。

 圧力容器は約300度に達し、核分裂で発生した中性子が当たり劣化する。玄海1号機の脆性遷移温度は93年の計測では56度だったが、2009年には予測を約20度も上回る98度まで急上昇した。全国の原発で最も高い。緊急時に冷却水を一気に注入すると容器が壊れやすくなり、大事故につながるのではないか-。

 「40年廃炉」方針が閣議決定された今年1月末。九電は井野の疑問に答える形で、試験片は「2025年に取り出す」と保安院に回答した。本紙が保安院に情報公開請求したところ、33年に取り出す当初計画を8年前倒ししていた。それにしても、25年は玄海1号機の運転開始から50年。「40年廃炉」から逸脱する。

 保安院もこれを事実上追認した。09年に取り出した試験片をミクロレベルまで検証した上で今月6日、「炉は十分健全であることを確認した」との報告書素案をまとめた。

 確かに、原発の寿命はどれくらいか、定説は確立していない。学者や原子炉メーカーなどでつくる日本原子力学会は7日、「40年廃炉」方針に対し「合理性、科学性に疑問を抱かせる」とする声明を発表した。

 とはいえ、原子力に関する知見には未知の部分も多い。草創期の原発はなおさらだ。50年を超えて運転する原発は今のところ、世界にはない。

 「1号機のように1970年代に稼働した古い原発の圧力容器の材質は悪い。ドイツにならい、70年代の原発はすぐに停止すべきだ」と、井野は主張している。

 保安院は当事者意識に乏しい。ある幹部は「われわれが何を決めても、新たに発足する規制委がすぐに覆す可能性がある。今は散歩しているようなものだ」と話した。

 何もかも規制委任せ-。今春をめどに結論をまとめる予定だった保安院の意見聴取会は今も続いている。玄海1号機の「温度」がなぜ急上昇したのか、謎はまだ解けていない。
(敬称略)

=2012/06/18付 西日本新聞朝刊=

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