【フクシマの教訓】(7)欠けた防災・避難対応 もう国には頼らない

上は滋賀県が独自に実施した原発事故時の放射性物質の飛散予測。右は滋賀県の嘉田由紀子知事。下は長崎県などと九州電力の原子力安全協定の締結式
上は滋賀県が独自に実施した原発事故時の放射性物質の飛散予測。右は滋賀県の嘉田由紀子知事。下は長崎県などと九州電力の原子力安全協定の締結式
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 「何言ってんねん」

 12日夜、滋賀県知事の嘉田(かだ)由紀子は自宅で思わずテレビに突っ込んだ。

 ニュース番組で、文部科学省の担当者が緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の情報を提供する自治体の範囲について淡々と答えていた。「原発から10キロを超える自治体には出せない」

 担当者は「情報提供の対象を原発から10キロ圏内とする原子力防災指針が、正式に見直されていないから」という政府方針を説明していたのだ。

 「(10キロを超えて広域に被害が出た)福島の事故があったのにしゃくし定規。びっくりする」。嘉田には理解できない。

 滋賀県と接する福井県の若狭湾一帯には原発群がある。滋賀の県境から最短で約13キロに日本原子力発電敦賀原発(敦賀市)、約16キロに関西電力美浜原発(美浜町)が立地。再稼働準備中の同大飯原発(おおい町)も約20キロと近い。

 震災から2カ月余り後の昨年5月末、嘉田はSPEEDIを運用する都内の公益財団法人に自ら出向いた。敦賀原発の事故などを想定し、県の避難計画を見直すため、放射性物質の飛散試算を提供してもらうためだ。

 琵琶湖の環境問題に詳しい環境社会学者でもある嘉田は、滋賀が若狭湾方向から風を受けることが多いことを知っており、不安を感じていた。

 だが、担当者は「10キロ圏外は出せない」と取り付く島がなかった。

 あれから1年以上が過ぎた。国は同じような説明を繰り返している。

 「申し訳ないけど、住民の命を守るには国を頼ってはいけない」

 嘉田は、かみしめるように語った。「自治体の首長として、福島の事故から学んだことです。福島の人たちは震災直後、国に捨て置かれた」

 国からSPEEDIのデータをもらえなかった嘉田は、滋賀県の研究機関で独自に放射性物質の飛散を試算し、昨年11月に公表した。

 試算通りに飛散するかどうかは分からない。「不安をあおる」との批判も強かった。ただ、確率の問題として起こり得る危機を住民と共有することが大事ではないか、と嘉田は力を込める。

 首相の野田佳彦は8日の大飯3、4号機の再稼働を求める声明で「福島のような地震や津波が起きても事故は防止できる」と断言した。事故が起きてしまったらどうするのか、嘉田は野田の声明からは防災・避難への対応がすっぽりと欠落していたと批判する。

 「住民からみて備えあれば憂いなしの状態でなければ不安。野田さんには見えていない」

 「医療活動、産業、地域雇用を守るにはやむを得ない」として、大飯再稼働を最終的に容認した嘉田だが、原発に近い自治体の長として、国の原発政策にもの申す姿勢を貫いている。6日には、京都府知事、山田啓二と「脱原発依存に向けた廃炉計画の策定を」など七つの提言を発表した。

 15日衆院を通過した原子力規制委員会の設置法案付則には、自治体が規制に関与していく仕組みを設ける項目が入った。嘉田、山田らが強く要望を続けていたものだ。

 一方、大飯3、4号機再稼働が決まった16日、玄海原発を抱える佐賀県の知事、古川康は「3・11(東日本大震災)後の原発再稼働のモデルケースになると思う」などと、国の手続きを評価した。
(敬称略)

=2012/06/19付 西日本新聞朝刊=

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