【九電 九州考】(2)の2 地元縛る「便宜」

養殖など漁業が盛んな長崎県松浦市。九電の松浦火力発電所の対岸の港からは施設の煙突などが目に入る
養殖など漁業が盛んな長崎県松浦市。九電の松浦火力発電所の対岸の港からは施設の煙突などが目に入る
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 海岸道路から急な坂道を上ると、新興の分譲住宅地があった。熊本県苓北町北部の「ざいのおニュービレッジ」。

 富岡湾が一望できる見晴らしを自慢に2009年に25区画が完成。だが、いまだに5区画ほどしか売れていない。

 九州電力苓北火力発電所で石炭の燃焼後に発生する廃棄物である砂状の灰が約8万トン、加工されてこの住宅地の盛り土に使われている。

 「本当に大丈夫でしょうか」。元町議の塚田達(とおる)さん(75)は、宅地購入を考える町民から相談を受けたことがある。石炭灰にはヒ素やセレンなどの重金属が含まれる。行政側は「環境基準をクリアしており問題はない」としているが、町民は汚染を懸念していた。

 同発電所が出す石炭灰は年間約30万トン。九電の処理を助けるため、町は宅地や農地に投入している。一橋大の山下英俊准教授(資源経済学)は「発電所の立地自治体と電力会社は全国どこでも一体化していく傾向がある。一体化が強まると、発電所がもたらす環境悪化などへの監視という行政の本来の役割を弱めてしまう」と警鐘を鳴らす。

 長崎県松浦市は、発電所が稼働に至っていない計画・着工段階で九電から総額36億円を得た。

 市内には松浦石炭火力発電所(出力70万キロワット)がある。九電は同発電所に2号機の建設を計画。1999年、2号機の計画の出力を70万キロワットから100万キロワットに引き上げるのに伴い、発電所からの温排水が増えるとして15億円を受け取った。

 さらに06年、今度は地域振興名目で21億円を受け取った。実態は一部着工していた2号機の運転開始を23年度以降に先送りすることへの迷惑料だった。運転延期によって“損害”を被る国からの交付金や固定資産税などを算定し、市側は約50億円を要望したが、21億円に落ち着いたという。

 市はこの21億円で「一切の異議を申し立てない」と九電に約束した。

 だが、震災が状況を一変させる。もともと九電が松浦2号機の運転延期を決めたのは、川内原発(鹿児島県薩摩川内市)3号機の建設を優先させるためだった。ところが、福島第1原発事故で原発の新規立地は困難に。

 「九電に建設前倒しをあらためて要求すべきだ」。再三、市議会で求められた友広郁洋市長は11月上旬、九電本店に足を運び、前倒しを要請した。市役所や市議の間では「建設前倒しに方針転換しても、それは九電の事情。迷惑料は返還する必要はない」という主張が早くも強まっている。

 エスカレートする自治体の寄付要請。一方、松浦市は玄海原発(佐賀県玄海町)から最短8・3キロにあり、原子力防災強化に向け、九電と安全協定を締結する交渉も続けている。

 友広市長が取材に答えた。「二枚舌と言われるかもしれないが、私の立場では(安全協定、2号機早期運転の)両方を追わなければならない」

 だが、九電に便宜を求めながら、安全協定を締結するため、本当にもの申す姿勢を貫けるのだろうか。

 松浦1号機建設時に九電から補償金を受け取った市内の60代の漁師は漏らした。

 「俺らはもう、よっぽどのことがない限り、九電に文句は言えんけどな」

=2011/12/31付 西日本新聞朝刊=

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