鍵は風力 デンマークの挑戦(上) 風車が主役 現実に

風力発電からの安定収入に「満足している」というクラウス・クリステンセンさん(左)と妻リーセさん=デンマーク・ロラン島
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 北欧デンマーク南部に位置し、国内4番目の大きさのロラン島。農家を引退して年金暮らしに入ったクラウス・クリステンセン(65)は、裏庭にある高さ約60メートルの風車を見上げて笑った。

 「金にもなるし、石油の節約にもなるから。最高に気に入っているよ」

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 島の別名は「パンケーキの島」。のどかな農業の島は、標高が最高で約25メートルしかなく、真っ平らなことからそう呼ばれているという。6万人超が暮らす。風力発電にもってこいの風が、年中吹き抜けている。

 デンマークは、風力発電設備に対する最大40%の補助金支給や、固定価格による買い取り制度を長年続けてきた。

 クリステンセンが個人で風車を建てたのは30年前、1983年にさかのぼる。いまの風車は99年に建て替えた出力550キロワットの2代目だ。7千万円を超える設置費は銀行から借り入れたが、電気を毎年100万キロワット時生み出し、年収600万円弱。借金は約10年で返済できたという。

 日本では風車が出す風切り音や、低周波音による不眠などの問題が一部地域で生じている。断熱性に優れたクリステンセンの自宅内に入ると、少なくとも羽根が回る音は聞こえてこなかった。

 ロラン島と隣接する島と合わせると、風車は個人や市民が共同出資する「市民風車」を中心に500基ほどある。ロラン島は、風力で電力を自給自足している。

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 70年代、デンマークもオイル・ショックに見舞われ、道路を走る車が大幅に減り、原発導入に傾いた時代があった。ロラン島でも原発建設計画が持ち上がった。

 だが79年の米スリーマイルアイランド原発事故を契機に原発の是非について国民的な議論が巻き起こった。81年から経済水域内にある北海油田で生産が始まったことで石油不足の危機が去ったこともあり、85年、国会は原子力の導入断念を決議した。

 99年には送電網と発電を経営分離し、各地に散らばる風力発電を積極的に送電網に流す仕組みを整えた。いまや5千基(2012年末時点)に上り、出力約400万キロワットと原発4基分に相当する。国内の電力需要の3割弱を風力が担う。

 「20年までに電力供給の50%を風力で賄う」-。気候エネルギー建設省の上級政策顧問アナス・ハスレアは胸を張った。

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 火力などの大規模電源に比べコストが高い風力を増やした結果、電気料金は欧州連合(EU)でも高く、家庭向けで日本の1・5倍ともいわれるが、ハスレアはこう反論した。「将来、化石燃料価格が上がって苦労するより、風力発電の導入で今の電気料金が上がるのは悪いことではない」

 それどころか、デンマークは50年には「エネルギー供給のすべてで化石燃料から脱却する」という世界に例のない長期目標さえ持っている。

 それに向け、20年までに風力をさらに200万キロワットほど増やして電力需要の50%を賄う計画。このうち、陸から5~25キロ離して設置する洋上風力が150万キロワットと大半だ。

 陸上の適地が減る一方、羽根の直径が120メートル規模もあるなど大型化が進む。「今後は洋上が風力発電の主力だ」。デンマーク大手電力会社、ドンク・エネジーの広報担当者は言い切った。

 デンマークが風力発電に果敢に挑戦できる背景には、北欧独自で電気を売買する市場があった。 (敬称略)

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 原発に依存せず、欧州でもいち早く風力発電を主力電源に位置づけたデンマーク。面積がほぼ同じの九州が学ぶべき点を探った。

 ■デンマーク■ 北欧南部にある王国。欧州大陸とつながるユトランド半島と、首都コペンハーゲンのあるシェラン島など大小約440の島からなる。人口約558万人で面積は九州とほぼ同じ。高負担、高福祉の国で知られる。2008年のリーマン・ショック直後を除けば堅調に経済成長を続けている。日本へは豚肉の輸出量が多い。ユーロには参加していない。

=2013/03/20付 西日本新聞朝刊=

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