鍵は風力 デンマークの挑戦(下) お荷物自治体 未来開く

ロラン島の風車メンテナンスの技術者養成校で訓練する若者たち
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 「ひもを引っかける位置が違うだろう」。風車に見立てたタワーのはしごに手をやる若い受講者に講師の厳しい声が飛ぶ。

 風力など再生可能エネルギーで自給率100%超のデンマーク、ロラン島には、風車のメンテナンスを行う技術者を養成する世界初の職業訓練校がある。

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 講師役でプロジェクトリーダーのヤン・ヨハンセンによると、風車で高所作業は2人一組が基本。この日はけがをした1人をどう地上まで下ろしていくかの訓練だった。年間の受講者は約300人。座学と現場研修を2年半繰り返す本格コースでは「風力発電技師」の国家資格が得られる。

 「風車のメンテナンスは各地域で長期間に及ぶ。肉体的な強さだけでなく、パートナーと信頼関係を築く人生経験がないと続かないよ」。ヨハンセンはメンテナンス作業の難しさを口にした。

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 訓練校設立は2008年のリーマン・ショック前後の世界的な金融危機がきっかけだった。島内にあった風力発電機メーカーが販売不振を理由に10年に工場閉鎖を決め、430人が解雇された。

 島には苦い経験があった。1980年代後半に造船メーカーが撤退した後、島の失業率は20%以上に上昇し、住民はどんどん島を去った。“お荷物自治体”と揶揄(やゆ)された90年代後半までの約10年間を、地元の人は「暗黒の時代」と言う。

 「当時はIT(情報技術)がはやっていたが、2番手にあった環境産業に目を向けようと思った」。そのころ海運会社からロラン市職員に転職し、現在は市議のレオ・クリステンセン(60)はこう振り返る。99年、造船所跡地を再整備する約束で風力発電機メーカーを島に呼び込んだのはクリステンセンだった。

 工場を誘致しただけでは、メーカーが世界的な競争に負けると自治体は見捨てられる-。日本の地方各地にある「企業城下町」が直面する難題を、この島も同様に抱え込んだ。「地元に若者や知識が残る方法を考えなければ」。それで目を向けたのは新たな工場誘致ではなく、風車メンテナンスの訓練校だった。

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 島の人々は結束して再生可能エネルギーで未来を開こうとしている。

 国などが07年から始めた水素コミュニティープロジェクトの実証試験に島全体で協力している。島民のエベ・ピーダーセン(77)の自宅軒先には、電気と熱を同時に供給できる燃料電池装置がある。ピーダーセンは最初に実証試験に加わった一人。「風力発電の電気を使って水素を取り出し、それからエネルギーを得る。二酸化炭素も出さず、地球を汚さないよ」と満足げだ。

 最大の魅力は、排熱利用を含めたエネルギー効率が80%以上にもなること。ロラン島など周辺の島を中心に、今年末までに約1万戸で燃料電池を導入する大規模試験も計画されている。

 島の挑戦はこれらにとどまらない。ごみや家畜ふん尿などのバイオマスの効率利用、波力発電機の開発など島内各地でエネルギーを地域の柱にする取り組みも展開中だ。

 「エネルギーを地方がつくることで都市部を支え、国を支えている。その重要性を、この島に住んで初めて気がついた」。地元ジャーナリスト、ニールセン北村朋子はこう話した。

 (敬称略)

 (竹次稔が担当しました)

=2013/03/22付 西日本新聞朝刊=

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