原発のゆくえ 岐路に立つ米国(上)の2 進む風化 矛盾も放置

原発から半径10マイルに設定された米国内のEPZに疑問を呈する「憂慮する科学者同盟」のライマン博士
原発から半径10マイルに設定された米国内のEPZに疑問を呈する「憂慮する科学者同盟」のライマン博士
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 広げた地図には、原発から半径50マイル(約80キロ)を示す円が幾つも重なるように描かれていた。ペンシルベニア州はスリーマイルアイランド(TMI)を含め、5施設に9基の原子炉を抱える。州放射線防護局の地図では、人口が密集するニューヨーク州やニュージャージー州に近い州東部に原発が並ぶのが見てとれる。

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 デビッド・アラード局長によると、ペンシルベニア州はTMI原発事故後、専門知識のある職員を原発に常駐させ、24時間態勢の放射線量測定を始めた。独自に危険の有無を判断するためだ。

 「情報が早く入れば住民の避難に割く時間も長くなる。事故から学んだのは、電力会社の情報だけを頼ってはいけないということだ」

 アラード局長の認識は、原発監視のNPO「TMIアラート」メンバーに近かった。原発の監視に関して、日本でも自治体がどう関与するのか議論されているが、米国の州政府は原子力規制委員会(NRC)任せにしているわけではない。

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 米国は104基の原発を所有する。日本の50基の2倍以上だ。TMI原発事故後は大事故を起こしていない。元原発運転員で現在原子力エネルギー協会の広報を担当するトム・コーフマンさん(60)は「安全運転を続けることで信頼を取り戻してきた」と力を込める。

 オバマ氏が再選された大統領選でも、原発は争点にならなかった。民主党のオバマ氏と共和党候補だったロムニー氏とでは地球温暖化対策に関するエネルギー政策に違いはあったが、原発を維持する方針は同じだった。

 だがそれは原発の監視体制が信頼を得るに至ったというより、TMI原発事故の風化がもたらした、との指摘もある。

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 「米国民は危機感を忘れてしまっている」

 民間団体「憂慮する科学者同盟」に所属し、原子力エネルギーが専門のエドウィン・ライマン博士は、そう強調した。

 東京電力福島第1原発事故後、米政府は「独自の分析」(カーニー大統領報道官)に基づいて日本在住の米国人に原発から半径50マイル圏外への退避を勧告した。

 約7カ月後に日本政府と同じ20キロに緩和したが、米国の防災対策重点地域(EPZ)は原発から半径10マイル(約16キロ)。なお国内の基準を4キロ上回る。ライマン博士は「EPZが10マイルで十分だという考え方と明らかに矛盾する」と指摘する。

 福島第1原発事故後、日本ではEPZを原発から半径30キロに拡大する指針を原子力規制委員会が決めた。しかし米政府内では「EPZの矛盾」が深く論じられた形跡はない。ライマン博士は「最悪のシナリオに備えるべきだ。綿密な計画なしに数百万人がスムーズに避難できるとは到底思えない」と訴える。

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 TMI原発1号機は今年夏の1カ月間に、原子炉冷却装置の故障などで2度、緊急停止した。カリフォルニア州の2基は1月から、配管の不具合で放射性物質を含んだ水が漏れ、停止したままとなっている。

 「原発の安全性には常に改善の余地がある」。コーフマンさんは率直に語る。同じ言葉は、日本の原発関係者からもたびたび聞かれる。

 事故を風化させず、現状に流されない-。そのためには厳格な安全基準と、それを押し進める強い意志がいる。

=2012/12/21付 西日本新聞朝刊=

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