本当は福岡が大嫌い?  転勤者が本音トーク

6人の参加者が福岡への思いを語った「覆面座談会」。「福岡人はメンタルの距離が近すぎる」との不満も出た
6人の参加者が福岡への思いを語った「覆面座談会」。「福岡人はメンタルの距離が近すぎる」との不満も出た
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ブラックホール説 真相はいかに

 「福岡は暮らしやすい」「食べ物もおいしい」…。その吸引力は、転勤してきたサラリーマンを優しくとりこにし、本社に帰りたくなくさせる魅惑の「ブラックホール」として、テレビ番組が成立するほどだ。でも、真相はどうなのか。そこで、転勤族の覆面座談会を敢行。あえて「本当は福岡が大嫌い?」と聞いてみた。すると「普段は決して口にできない」という本音が爆裂した。

■福岡の「シモキタ」に6人が集結

 「顔はNGです」「名前は出ませんよね」。仕事を終えた男女6人が不安を口にしながらマンションの一室に集まった。

 7月のある金曜日、福岡市・西新。天神まで地下鉄で「7分」という利便性の良さから、不動産業者が「福岡のシモキタ(東京・下北沢)」と転勤族にお勧めする人気エリアだ。参加者たちもこの周辺に住んでいるという。

 6人の構成は、東京など福岡市外から転勤や就職で移り住んできた30歳〜41歳の男女5人と、「生まれも育ちも西新」という45歳の会社員男性。西新出身の男性には、福岡側の“代弁者”として加わってもらった。

 冒頭の質問はこれだ。

 Q福岡は好きですか。その理由は。

 答えやすかったのか、全員が「はーい」と手を挙げた。理由はこうだ。

 「食べ物がおいしいから」
 「街がコンパクトで便利」
 「適度に都会」

 中でも、1年半前に東京から転勤してきたというIT会社勤務の男性(38)は「焼き鳥は豚バラがおいしい。東京には福岡ほどなかったし、値段も安い」と、お気に入りの様子だ。

 これはよく耳にする内容。相づちを打つ人も多く、会話のエンジンも暖まってきたようだ。
 そこで、早速本題に入った。

 Q本当は福岡が大嫌いな人は。

 一瞬、会場が静まり返った。警戒か、様子見か。各自、パイプイスに並んで座る隣の参加者をきょろきょろ見ながら、誰も手を挙げない。時間だけが刻々と過ぎる。

 聞き方を変えてみた。

 Q本当は、福岡に嫌いなところがある人は。

 部分否定に切り替えて答えやすくなったのか、今度は、4人が手を挙げた。しかも、西新出身の男性まで。

■不満がもう、止まらない

 理由を尋ねた。すると、まず2人が「博多弁で心の距離を近づけてくる人が多い」と訴えた。

 1人目は印刷関連業で東京本社の福岡支店に勤めて11年という女性(33)が、スーパーで「よく遭遇する」というエピソードを明かした。

 「突然、知らないおばさまが近づいてきて『このトマト熟れすぎやね〜』などと同意を求めてくる」という。しかも、近くには店員が。「聞こえないかと緊張した」。福岡に遊びに来た親の前でも「別のおばさまから声をかけられ、親から『あの人知り合いなの?』と確認されるほど、親しげに近づいてくる」というのだ。

 2人目は西新出身の男性。銀行のATMが混んでいると、「一緒に並んでいたおばさまが『あの人遅いね』と同意を求めてくる」という。確かに、先頭にはATMに手間取る利用者が。男性は「どう答えていいか分からなかった」と振り返り、自分の順番が来たとき、「早く終わらせなきゃ、と緊張して手を急いで動かした」と証言した。

  ◇  ◇

 「運転が荒い」との声も。これは最近、日本自動車連盟(JAF)の全国意識調査でも指摘された。
交通マナー「悪い」福岡6割 JAFが初の意識調査

 訴えたのは残る2人。

 6年前に転職して大分県から福岡市に来たという広告営業の女性(31)は「タクシーの運転が荒くて乗るのが怖い」。一般の車両も「ウインカーを出さずに車線を変更するドライバーがいる」という。

 東京の大学を卒業し、8年前に福岡市で就職したというグラフィックデザイナーの女性(30)は「高校生の自転車のスピードが競輪選手並みで、危ない。(以前住んでいた)神奈川県の2倍の速さ」と驚く。

 さらに、この女性は「福岡は芸術・文化が足りない」とも。「天神も博多も、グルメとファッションばかりで、女子を狙いすぎ。展覧会やアミューズメントは、むしろ、『漫画ミュージアム』がある北九州市の方が上」と言い切った。

  ◇  ◇

 地下鉄のマナーも悪いらしい。

 印刷関連業の女性は「朝の地下鉄は、車両の出入り口付近だけが混んでいる」と口火を切った。

 「みんな自分がすぐに降りたいだけです。だって、車両の奥に行くと、結構、ガラガラですよ」

 西新出身の男性も共感した。「東京の地下鉄じゃ、車両の出入り口付近の乗客は、いったんホームに降りて、後ろの人が降りやすいように動線をつくるのが基本。福岡ではほとんどみられず、ムカつく」

 聞けば、男性は、25年のサラリーマン人生のうち、東京が19年、福岡が6年の勤務歴。てっきり福岡の“代弁者”だと思っていたが、地下鉄問題では転勤族側の“論客”と化したようだ。

■やっぱり“左遷”なのかも

 次は率直なイメージについての質問。

 Q「福岡転勤」を東京本社はどう位置づけていますか。

 これには、印刷関連業の女性が、ためらいながらも東京本社の雰囲気を打ち明けた。

 「幹部にとって地方勤務は出世コースの一つです。でも、若手の場合は、少し違うんです」

 Qどういう意味ですか。

 「はい。つまり、その…。東京で活躍できなかったというか、仕事を取れなかったというか、そんな若手は、もう本社にいられないというか、左遷的なというか」

 「だって、仕事は東京にいっぱいあるじゃないですか。それなのに契約が取れないなら、もう…。そんな位置づけです」

 サラリーマンの厳しい現実に、場の雰囲気が凍りつきそうになった。

 さらに、転勤を告げられた若手の反応は―。

 「何年かしたら(東京に)戻れるんですよね」。“往復切符”を手に入れようと懸命に上司にすがる。

 「数字が人格」「売り上げ至上主義」―。業績がものを言う営業マンの世界を目の当たりにして、胃が痛くなる話だった。

■ブラックホールに吸引か

 結局、福岡は、日本の西の地方都市なのか…。そんな寂しさが会場を包みかけたときだった。

 「嫌いなところ」を聞かれても、手を挙げず、沈黙を守った2人の男性が、語り始めた。

 IT会社に勤務する男性(41)は、7月で福岡勤務歴が丸3年。当初は2年の“往復切符”だったのに、「帰ってこい」との本社の命にも従わず、「帰りたくない」と、ずるずる勤務を延ばしているという。

 理由は「ホークスがあるから」。西新に住んだのも、「ドームが近いから」。「ずっと試合を見ていたい」

 もう1人は「豚バラ好き」の男性(38)だ。「立ち飲み屋が好き。もう福岡がいい」と出ていくつもりはなさそう。

 「まさか遊び優先で?」という周囲の冷たい目線を察知したのか、ホークス好きの男性は「目標は福岡で日本一の営業マンになること」と切り返してきた。

 でも、この2人は、確実に「ブラックホール福岡」に吸い込まれていると言えるだろう。

■参加者共通の驚きの事実

 開始から2時間。最後の質問に突入した。西新出身の男性を除いて、福岡では「アウェー」の5人に共通するある事実について、である。

 それは―。

 鹿児島市、大分県中津市、長崎県佐世保市、熊本県人吉市…。なんと、集まった転入者全員が、もともと九州出身だった。佐世保市は偶然、2人もいた。

 東京出身者にも複数参加を呼び掛けたが、キャンセルが相次いだ。

 Q結局、集まったのは、九州人ばかり。どう思いますか。

 この問いに、参加者たちは、矢継ぎ早に答えた。

 「東京の人は(座談会を開いた)金曜日には、家族がいる東京に戻る人が少なくない」
 「東京の人はノリがよくない。その場のノリで飲みに行こうともなりにくいし」
 「温かい感じがするな、と思ったら、たいてい九州人。東京の人は冷たい感じ」
 「平日も遅くまで飲んでいる光景に、遊びに来た東京の友達がびっくりしていた。家賃が高くて遠くに住んでいるため、飲んでもすぐに帰る。結果、付き合いがが良くない印象がある」

 そして、1人の参加者が打ち明けた。複数の東京出身の知り合いに「こんな座談会があるけど行かない?」と参加を呼び掛けたが、全員断られたという。

 「メンバーには福岡や九州の出身者がいる」と告げた時だ。

 「いろいろ言っていたら、突っ込まれるんじゃないか」
 「価値観を押しつけられるのでは」
 「論破されそう」

 と不安が。どうやら、「おじけづいて」(参加者)、出席を見送ったようだった。

 転勤者を魅了する街、福岡。しかし、同時に、地元愛からなのか、市外の人が「ノー」と言いづらい土壌を、無意識につくりだしてはいないだろうか。

 例えば、ラーメン。「豚骨に限るやろ」。街を訪れた人に、そう“強要”することはなかっただろうか。「僕は醤油が」という声を、否定することはなかっただろうか。

 愛は惜しみなく与えるもので、押し付けるものではない。そんな教訓じみたことを感じさせつつ、座談会は閉会した。

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