「福岡はお笑いの本場」説は本当か 吉本進出から28年 “起業家魂”で挑む若手芸人たち

福岡市内の貸しホールを拠点に活動する福岡吉本の若手芸人たち。ベテラン組も含め吉本芸人は福岡市民の身近な存在になっている
福岡市内の貸しホールを拠点に活動する福岡吉本の若手芸人たち。ベテラン組も含め吉本芸人は福岡市民の身近な存在になっている
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那珂川を周遊する水上観光バスに「一日お笑い船長」として乗船し、報道陣を前にネタを披露する福岡吉本のピン芸人、マサル(中央正面)
那珂川を周遊する水上観光バスに「一日お笑い船長」として乗船し、報道陣を前にネタを披露する福岡吉本のピン芸人、マサル(中央正面)
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先輩コンビ「ぶんぶん丸」(左の2人)に続いて「福岡県済みます芸人」に就任したピン芸人・マサル(右隣)
先輩コンビ「ぶんぶん丸」(左の2人)に続いて「福岡県済みます芸人」に就任したピン芸人・マサル(右隣)
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貸しホールを拠点に地道な活動を続ける福岡吉本の若手芸人たち。お笑いファンらで埋まる客席との距離は驚くほど近い=福岡市・天神のビブレホール
貸しホールを拠点に地道な活動を続ける福岡吉本の若手芸人たち。お笑いファンらで埋まる客席との距離は驚くほど近い=福岡市・天神のビブレホール
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福岡吉本の若手芸人たちのステージを至近距離で楽しむ女性ファンたち。SNSをフル活用してイベント情報を集め、ファンの輪も広げているという
福岡吉本の若手芸人たちのステージを至近距離で楽しむ女性ファンたち。SNSをフル活用してイベント情報を集め、ファンの輪も広げているという
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福岡吉本が福岡市・天神で今春開いた公開オーディション。九州内外から18〜25歳の素人芸人8組12人が出場し、観客や審査員を前に自作のネタを次々披露した
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公開オーディションで最優秀賞に選ばれた「晩白柚」の2人。吉本興業福岡支社の野中雅弘支社長から直接スカウトされ、福岡吉本入りが決まった
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公開オーディションに駆け付けた「ロバート」の馬場裕之(正面左)や「シソンヌ」の2人(右隣)。軽妙なトークで本番直前の会場を盛り上げた
公開オーディションに駆け付けた「ロバート」の馬場裕之(正面左)や「シソンヌ」の2人(右隣)。軽妙なトークで本番直前の会場を盛り上げた
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交通事情のため、公開オーディション会場に遅れて到着した「ロバート」の秋山竜次。得意の体ものまねでベテラン俳優・梅宮辰夫になりきり、爆笑を誘った
交通事情のため、公開オーディション会場に遅れて到着した「ロバート」の秋山竜次。得意の体ものまねでベテラン俳優・梅宮辰夫になりきり、爆笑を誘った
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 福岡で新生活を始めた人は気付くかもしれない。ある職業の人たちを地元メディアや街角でよく目にすることに。それはお笑い芸人。松本人志(ダウンタウン)、田村淳(ロンドンブーツ1号2号)など吉本興業所属のメジャーな芸人も地元民放で番組を持っており、今や福岡は大阪、東京に次ぐ「お笑いの本場」になった、という説もあるほどだ。その真偽を確かめるべく、活躍する芸人の大半が所属する福岡吉本を直撃した。

 ■地元に住み地元ネタで

 春まだ浅い3月。福岡市の繁華街、天神と中洲の間を流れる那珂川に架かる「福博であい橋」の川岸に、一隻の船が停泊している。岸を発着点に川を周遊する水上観光バス「那珂川リバークルーズ」。船上で、福岡吉本のピン芸人、マサル(29)は、報道陣に囲まれていた。マサルが「一日お笑い船長」を務め、観光客を案内する企画のお披露目会なのだ。先輩漫才コンビ「ぶんぶん丸」=山田直樹(34)と池田義之(32)=も乗船していた。

 建設現場の作業員を思わせるヘルメット姿で現れ、船頭に立ったマサル。船が岸を離れると、キャナルシティ博多や中洲のビル街を見渡す船上からの眺めを博多弁で案内し、早速、持ちネタを披露した。

 「博多のおいさんは話が大きくなる。魚釣りの話でも、釣れた魚の大きさは最初こんくらい(両手で示す大きさは約20センチ)やったとに、そのうち『こげん太かった(大きかった)』と両手ば広げて(1メートル以上)言う」
 「博多のおいさんの会話。おっとっととっとってていうとったとに、なんでおっとっととっとってくれんやったと」(「おっとっと」(スナック菓子)を(全部食べず)残しておいてほしいと言ったのに、なぜ「おっとっと」を残してくれなかったの)
 「よそから来た人、分からんやろね」―。今も続ける解体作業のアルバイトをヒントにした物まね芸「博多のおいさん」シリーズは、報道陣の笑いを誘った。

 マサルは生まれも育ちも博多。ぶんぶん丸の2人も福岡県粕屋郡の出身だ。実はこの日、マサルは先輩コンビに続いて「福岡県住みます芸人」に就任した。これは吉本興業の大﨑洋社長の発案で2011年に始まった「あなたの街に住みますプロジェクト」の一環。47都道府県に地元出身芸人を住まわせ、笑いの力で地域活性化を後押ししている。約7000人に上る全国の吉本芸人を「笑いのインフラ」として生かすのが狙いで、吉本興業流の「地方創生」戦略なのだ。

 今回は、同じ福岡都市圏出身のコンビに、博多っ子のマサルを加えたところがミソ。PR効果を増強する戦略が、福岡市の観光振興策とマッチし、市などによる企画にマサルも参画することになった。福岡吉本の芸人について市担当職員は「福岡の魅力を発信する貴重な人材。心強い」と期待する。

 「福岡と聞いて中洲のネオン街を思い浮かべる人が多いと思うけど、おいしい店や観光名所など昼間も見どころは満載。魅力が24時間光る福岡を発信したい」と意気込むマサル。

 船上での芸は続く。「エイショウエ」「ションガネ」の掛け声でのどを披露したのは「博多祝い唄(祝いめでた)」。江戸時代に歌われた「伊勢音頭」を起源とする説もあり、博多では葬儀の場で歌われるケースもあるという特別な唄だ。幼い頃から博多祇園山笠に参加しているという生粋の博多っ子らしく、神妙な表情で歌い上げた。

 かと思うと、次は中洲川端にある行きつけのラーメン店の店主の物まね。ドラムを叩くような動きと表情で、茹で上がった麺を湯切りする。「それって、いったい誰よ?」と突っ込みたくなりつつ、なぜか笑ってしまう。

 ■複数の劇場が活動拠点

 現在、福岡吉本には37組57人が所属している。ベテラン組で言うと寿一実(60)、コンバット満(47)、高田課長(48)、ケン坊田中(45)。ほかに名を連ねてみると、「どんぴしゃ」=森本ちゃん(45)、あかみねとんぼ(40)/「レモンティー」=ヤマドゥ(39)、阿部哲陽(43)/「メガモッツ」=中川どっぺる(36)、池内祐介(36)/「スリーナイン」=金田昇大(33)、藤敏孝(33)/「メタルラック」=ノッポノナカ(29)、美意識タカシ(29)…といった面々がテレビやラジオ、CM出演のほか、吉本新喜劇などの舞台、観光大使などと幅広く活動している。

 では、福岡吉本はどんな歴史を刻んできたのか。
 発足は1989年。翌年のオーディションで博多華丸・大吉、コンバット満、ター坊ケン坊(カンニング竹山とケン坊田中)らが1期生としてデビューした。「M−1グランプリ 2009」で優勝したパンクブーブー(佐藤哲夫と黒瀬純)や、「THE MANZAI 2014」で優勝した華丸・大吉は東京に拠点を移したが、福岡吉本とは今も交流があるという。

 初期を知る吉本興業九州エリアマネージャー、中島真一さん(51)は「地元民放ではアイドル並みの大人気でしたね」と振り返る。当時、東京のキー局ではビッグスリー(タモリ、ビートたけし、明石家さんま)に続き、とんねるず、ダウンタウン、ウッチャンナンチャンが台頭。一方、地方民放ではキー局に依存しない番組制作を目指す風潮が強まる中、身近なお笑い芸人へのニーズが高まっていたという。「芸人たちはネタを作る暇もないほど仕事に追われた。恵まれ過ぎたかも」

 しかし、情勢は変わった。90年代に入ると「タモリのボキャブラ天国」「進め!電波少年」「めちゃ×2イケてるッ」などお笑い芸人“量産”の時代へ突入し、2000年以降には「エンタの神様」「お笑いオンエアバトル」などのネタ見せ番組が大ブレーク。芸風が多様化する中、腕を磨く無名の芸人に感情移入して応援するファンも徐々に増えた。

 こうした変化に呼応し、福岡吉本は99年、JR博多駅前の商業ビル内に常設の「吉本111劇場」(のちに『吉本ゴールデン劇場』に改称)を開設。若手芸人育成の場として運営し始めた。しかし、賃料高騰などの事情から常設劇場の維持が困難になり、04年に撤退。現在は天神ビブレ、イムズ、博多リバレインなどの貸しホールで若手芸人らの定期イベントやライブを催している。

 中島さんによると、札幌や名古屋も含む吉本の地方拠点のうち、所属芸人が最も多いのは福岡。さらに賃貸とはいえ複数の劇場を活動拠点とする地方事務所は異例という。なぜ福岡に力を注ぐのか。

 「吉本新喜劇がある大阪の劇場は昔から、福岡の団体客が多かった。博多どんたくや博多祇園山笠など祭りも盛んだし、祭り好きも多い。芸人を育てる土壌がある。それに、福岡市は女性の人口が多い。市場としてぴったりなんです」

 ■起業家に通じる職業観

 では今後、福岡吉本はどんな歴史を刻んでいくのか。今春、天神のホールであった「福岡よしもと・若手発掘オーディション」でヒントを探った。九州内外の18〜25歳の素人芸人8組12人が、漫才や漫談、一発ギャグ、コント、果ては「絶対音感披露」…と次々にパフォーマンスを披露。滑りまくっても最後まで折れない心で挑戦した。

 審査の結果、漫才コンビ3組が入賞。このうち吉本興業福岡支社の野中雅弘支社長から直接スカウトされる最優秀賞に選ばれたのは「晩白柚(ばんぺいゆ)」。現役の九州大法学部生、佐々木玄(はじめ)さん(20)と諸石恭志(たかし)さん(20)のコンビだ。2人の喜びの声は「まずはM−1で優勝し、漫才で食べていきたい」。
 長崎から同級生とバスで駆け付け、一部始終を見守った女子高生(16)は「人を笑わせ、元気にするのは素晴らしい仕事。私も頑張って勉強し、将来は芸能マネージャーを目指したい」と語った。

 最近のお笑いブームを支えたテレビのネタ見せ番組も放送が終わり、一部にはお笑い人気の陰りを指摘する声もある。しかし、中島さんはひるまない。その理由として、若手芸人や、芸人志願者たちの「芸人としての職業意識の高さ」を挙げる。

 それについて、九州経済調査協会の清水隆哉研究員は、こう分析する。
 「吉本興業が大手企業であるとはいえ、芸人は『個』の力量が問われる職業。ここ数年の就職戦線は学生が優位の売り手市場が続き、大手企業志向が強まる傾向にあるが、そうした中で芸人を志す人たちの職業観は、ベンチャーなど起業家に通じるものがあるのではないか」
 
 よくライブに訪れるという西南学院大商学部の平木真朗准教授(52)も「お笑いの神髄は話芸を磨く点。3分間のネタでも1分1秒の無駄がなく、間も計算している。ビジネストークの視点で見ても面白い。彼らは高いプレゼン能力を持つ優秀な営業マンになれる」と話す。
 
 とは言え、芸の世界で厳しい競争を勝ち抜くのは並大抵ではないだろう。「笑いは、人と人のコミュニケーションを支えるツール。どんなに時代が変わっても、必要性が薄れることはない」という中島さん。「売れるにはどうすればいいか」と尋ねると、即座にこんな答えが返ってきた。

 「辞めずに続けること。これに尽きる」

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