<森の声 風の音>(1)林業 減る減るじゃなくて…

宮崎県椎葉村で尾前林業を創業した尾前慎二さん
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宮崎県諸塚村に暮らし前田産業を営む前田隆雄さん
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 青い山が波のように連なる九州脊梁山地に抱かれた宮崎県椎葉村。尾前慎二(46)は43歳で木材伐採の会社を起こした。地元の6人を雇い、標高600~1000メートルの山林で汗を流して3年。林業は楽ではないが信念がある。「椎葉には山しかない。山で生きる」

 椎葉の若者は高校から村を離れる。尾前も村外の高校に進学、卒業すると自衛隊に入り戻らなかった。22歳のとき、森林組合の試験に受かり帰郷。「どのみち親のためにと思うとった」

 働きながら山の現場を学んだ。4人いる子どもの末っ子が小学校に上がると、早期退職して起業した。退職金の大半を機材購入に充てた。いちかばちかだった。「帰ってくるかは分からんが、村を出た子どもたちが都会で生きられずに戻ったときに仕事できるかなと」

 尾前の地元・尾向地区は約470人の住民のうち0~29歳が102人と、若者の姿が目につく。森林組合職員として帰った際も、同年代の仲間が迎えてくれた。都会には車で約3時間かかるが不便と思ったことはない。むしろ自然の中で暮らし、仕事するのが楽しい。

 宮崎県の林業に時代の風が吹いている。自然エネルギーが注目されて近隣で木質バイオマス発電所が複数稼働。捨てていた低質材に燃料需要が生まれ、中国、台湾向け輸出も増加。戦後造林して伐採期を迎えた針葉樹林は追い風に乗る。30年以上、下落傾向が続いた同県森林組合連合会の市場の木材価格(1立方メートル当たり)は、2012年度の8300円を底に、15年度は1万300円に回復。面積の大半を森が占める同村や隣の諸塚村が活気づいている。

 その諸塚村に居を構え、木材伐採、輸送を行う前田産業(同県日向市)の社長、前田隆雄(54)は、村で初のバイオマス発電向けチップ生産工場を今春稼働し、6人を新規雇用した。「高性能機械を使ってみたい」という大卒女子も採用し、既に山で働いている。

 家業を継いだ前田。「切る木を売っていただかないと仕事できない。『この山売ったら何もないよ』というばあちゃんの様子見に行ったり、家族の伝言届けたり。切って終わりじゃなくて人のつながりができるのが生きがい」と語る。

 提案して実現した村営住宅には、社員が入居し子育て中。36人の社員の半分は村に住み、「古里に貢献できている」。

 諸塚では小中学校の児童・生徒が古里を学ぶ学習を行っている。荒谷小学校は林業をテーマに据えた。子どもたちは林業が地域をどう支えるか、課題は何かを聞き取り調査し、研究成果を発表している。古里の良さに子ども自身が気づき、誇りを持つ取り組み。もちろん前田も協力している。

 「昔は『林業じゃ食っていけん』と大人が言うから、若者は町に出るしかなかった」と前田。だが、「余力は残ってる。人口が減るのは分かっているが、それを緩やかにして若い者の雇用をつくる知恵やら出せば…。減る減るじゃなく増やしていかんと」。古里に限界集落という言葉は当たらないと思う。

(敬称略)

    ◇    ◇

 宮崎県の椎葉、諸塚村と高千穂、五ケ瀬、日之影町は、山村の厳しい環境を克服し森林理想郷を目指す県北フォレストピア構想で連携。「平成の大合併」にも一線を画して地域を磨いてきた。人口減、高齢化が進む中、森の声を聞き、時代の風を感じて地域を創る人々の姿を追う。

=2016/07/26付 西日本新聞朝刊=

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