熊本・小国町移住者は赤ちゃんラッシュ 過疎地に元気と活力

ゲストハウスの玄関前に立つ平野さん夫婦と楓ちゃん
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小国杉で作った玩具をPRする入交律歌さん。玩具は2013年から、小国町役場が町内の1歳児にプレゼントしている
小国杉で作った玩具をPRする入交律歌さん。玩具は2013年から、小国町役場が町内の1歳児にプレゼントしている
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 地元産の小国杉を生かした町づくりで知られる熊本県小国町で、移住者たちに赤ちゃんが相次いで誕生している。官民連携で進める移住促進事業の成果もあって、移住者は最近2年半で60人を超え、この1年間で夫婦5組が子宝を授かった。愛らしい笑顔は、過疎高齢化が進む山間の集落に元気と活力を与えている。

 町中心部から車で10分余り。杉林と棚田に囲まれてゲストハウス「そらいろ」がある。3年前に移住した木工造形作家の平野孝博さん(26)、優さん(31)夫婦が築100年の古民家を改装し、2014年1月に開業した。

 「地元集落で十数年ぶりの赤ちゃん誕生ということで、皆さんが喜んでくれています」。そう語る夫婦の間を昨年12月に生まれた楓(かえで)ちゃんが動き回る。

 孝博さんは富山県、優さんは神奈川県の出身。東日本大震災後、2人で小国町に来た。「住むなら西日本がいいなと。阿蘇地方に決めたのは私の直感です」と優さん。孝博さんは「日当たり良好で湧き水がうまく、風が心地よい。理想的な生活環境」と言い切る。

 少子化に伴い、小国町では09年、町内6小学校が中心部の1校に統廃合された。平野さんの集落にあった小学校も廃校になった。「『廃校で子どもたちの声も消えた。寂しくなった』と地元のおじいちゃんたちは嘆いています」と孝博さん。小国町政策課で移住問題を担当する田辺国昭係長は「地域の集まりや活動は、学校が中心。学校がなくなれば、地域から活力が失われる」と心配する。

 それだけに、楓ちゃんの存在は地域の希望だ。「ご近所さんが『大きくなったね』とよく顔を見に来てくれる。それがうれしい」と優さんは喜ぶ。

 地域を笑顔にしているのは、小野木朝(おのぎあさ)ちゃんも同じだ。ともに東京出身で昨年3月に移住してきた、小国町森林組合勤務の辰(しん)さん(40)と妻(34)の間に同年12月に生まれた。

 「移住して来たばかりなのに、みんながすごく優しい。妊娠中から『おなか触らせて』『これあげる』とか声を掛けてくれた。ベビー用品も買ったものがないぐらい」と妻。自宅に風呂がないため、一家は集落の共同浴場に足を運ぶが、地元の年配女性たちも「朝ちゃんと同じ時間に私も入るわ」と通って来るという。

 移住促進に取り組む小国町の地域おこし協力隊、松井美佑紀さん(25)は「過疎化で元気がなかった集落に生まれた赤ちゃんは地域の宝物。『かわいかね』と笑顔いっぱいなのを見ると、これが本当の地域活性化かと実感する」と語る。

 ただ、田舎ゆえの不便さもある。小野木さんの妻は「ここでは病院やお店を選べない。出産や持病で通院が必要なときに時間がかかったり、医師を選べなかったりする心配はある」と打ち明けた。

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 広がる移住女子の輪 先輩が呼び水

 小国町には、若い女性が単身で移住する例も少なくない。そのパイオニアが、高知県安芸市出身で移住5年目の入交律歌(いりまじりりか)さん(32)。彼女に続いて移住した後輩女性たちが、新たな移住者の呼び込みに奔走したり、地元で人生の伴侶を見つけたりしている。

 入交さんは現在、小国町森林組合に勤務。企画と販売を担当する。九州大大学院で林業経済を学び、同級生が林野庁や大手林業会社などに就職する中、「やるなら現場だ」と27歳で小国町に飛び込んだ。

 小国杉の特長を「寒暖差が大きい山地で育つため、重く強度がある。だから、小国ドームなど大型の木造建築物の建材として使える」と説明。しかし「魅力的なのは、杉そのものより、それに誇りを持ち地域をもり立てようと頑張る林業関係者や町民の気質です」と力を込める。

 地元の男性と今年結婚。話題作りを狙い、結婚指輪には宝石ではなく推定樹齢1300年の小国杉を入れ、地元紙に取り上げられた。「木の持つ温かさや安全性など小国杉の潜在的な需要はもっとあるはず。それを引き出したい」と熱い。

 刺激を受け、神戸市や福岡市などから20~30代の女性3人が移住してきた。その後、1人は隣町の男性と結婚、2人が地域おこし協力隊として働く。熊本市出身の松井美佑紀さんもその一人。大学の卒業論文の調査で訪れて入交さんと出会い、背中を押された。

 「生き生きと働き、地元で必要とされていた。田舎暮らしの手本のようで、すてきだった。彼女がいなければ、私はこの町に来ていないと思う」と松井さん。入交さんは「先に移住して楽しくやっている知人がいれば、安心して後に続きやすい面はあるだろう。そういう移住の輪が広がればうれしい」とほほ笑んだ。

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 定住へのケアが大切 官民連携で知恵絞る

 40%に迫る高齢化率、毎年100人超のペースで減り続ける町人口‐。全国各地の町や村が直面する人口減に歯止めをかけようと、小国町では、官民が連携して移住者の呼び込みに知恵を絞っている。

 町は昨年5月、移住希望者の相談窓口を町内の研修施設「木魂館」に開設。それまで移住相談には、同館を運営する一般財団法人「学びやの里」、町役場、小国ツーリズム協会の三者がバラバラで対応していたのを一元化した。関係者が2週間に1回、定例会に集う。移住希望者や空き家バンクなどの情報交換を密にして、対応方法や制度の改善につなげるのが狙いだ。

 町は昨年度、(1)最長1年間のお試し暮らし住宅(2)移住者が空き家を改修するための補助金(3)空き家バンクへの登録を促す奨励金‐などの制度を設けた。

 小国町の人口は、1955年の1万6476人をピークに現在は7425人。65歳以上の高齢化率は38・8%で、熊本県内45市町村のうち8位の高さだ。

 一方、学びやの里によると、移住者は2014年度21人、15年度23人。16年度も既に17人を数える。

 町などは、移住者の「定着」に心を砕く。移住者と住民がバーベキューなどを楽しむ交流会「小国茶論(さろん)」を3カ月に1回ほど開くのも、そのためだ。

 学びやの里の江藤理一郎事務局長(37)は「移住者が知り合いを呼んでくる例が多い。その意味で移住後のケアが大切だ。移住者が地域に溶け込み、元気で活躍する姿を見てもらうことで、さらなるIターン、Uターン者の呼び込みにつなげたい」と強調する。


=2016/09/16付 西日本新聞朝刊=

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