【地域再座談会1】地域持続へ人づくりを

熊本県多良木町集落支援員 上治英人氏 うえじ・ひでと 鹿児島県指宿市生まれ。介護施設の職員だった2013年、熊本県多良木町の集落支援員に採用され、福岡県春日市から移住。同年9月から現職。ケアマネジャーなどの資格を生かし、高齢者宅の巡回、診療所への送迎、地域のPR活動などを担う。妻、3人の娘と5人暮らし。44歳。
熊本県多良木町集落支援員 上治英人氏 うえじ・ひでと 鹿児島県指宿市生まれ。介護施設の職員だった2013年、熊本県多良木町の集落支援員に採用され、福岡県春日市から移住。同年9月から現職。ケアマネジャーなどの資格を生かし、高齢者宅の巡回、診療所への送迎、地域のPR活動などを担う。妻、3人の娘と5人暮らし。44歳。
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むらつむぎ代表 千綿由美氏 ちわた・ゆみ 佐賀県武雄市出身。2003年から同市若木町で空き家再生、移住支援などに取り組む。11年、同町で「土雑貨&カフェつちのや」をオープン。他の移住者たちと共に、町の案内マップを作ったり、イベントを企画したりする「むらつむぎ」の活動を行う。1男1女の母。47歳。
むらつむぎ代表 千綿由美氏 ちわた・ゆみ 佐賀県武雄市出身。2003年から同市若木町で空き家再生、移住支援などに取り組む。11年、同町で「土雑貨&カフェつちのや」をオープン。他の移住者たちと共に、町の案内マップを作ったり、イベントを企画したりする「むらつむぎ」の活動を行う。1男1女の母。47歳。
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NPO法人ローカル・グランドデザイン理事 坂本誠氏 さかもと・まこと 高知市生まれ。東大法学部卒。東大大学院農学生命科学研究科農業資源経済学専攻単位取得退学。高知県梼原町地域振興アドバイザー、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構農村工学研究所、全国町村会調査室長などを経て2015年から現職。農学博士。41歳。
NPO法人ローカル・グランドデザイン理事 坂本誠氏 さかもと・まこと 高知市生まれ。東大法学部卒。東大大学院農学生命科学研究科農業資源経済学専攻単位取得退学。高知県梼原町地域振興アドバイザー、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構農村工学研究所、全国町村会調査室長などを経て2015年から現職。農学博士。41歳。
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前宮崎県五ケ瀬町長 飯干辰己氏 いいほし・たつみ 宮崎県五ケ瀬町生まれ。山口県の下関市立大卒業後、五ケ瀬町役場に入庁。企画商工課長を辞職して町長選に出馬した2002年5月、初当選。五ケ瀬ハイランドスキー場の運営会社社長や社団法人全国国土調査協会副会長を務め、14年5月に3期12年で町長を退任。60歳。
前宮崎県五ケ瀬町長 飯干辰己氏 いいほし・たつみ 宮崎県五ケ瀬町生まれ。山口県の下関市立大卒業後、五ケ瀬町役場に入庁。企画商工課長を辞職して町長選に出馬した2002年5月、初当選。五ケ瀬ハイランドスキー場の運営会社社長や社団法人全国国土調査協会副会長を務め、14年5月に3期12年で町長を退任。60歳。
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 「地方消滅」の危機さえ指摘される人口減少社会。地域に活力を取り戻すための模索が全国の自治体で続いている。政府の地方創生施策が2015年度からの5カ年計画で進められる中で、都市住民が新たな生活スタイルを求めて都市から農村に移り住む「田園回帰」という新たな潮流も生まれている。いま、地域に何が問われているのか。学識経験者と、本紙「ここで生きるネット」に参加する元首長や地域づくりの実践者に集まってもらい、九州の現状や必要な視点などについて話し合った。(敬称略。司会は西日本新聞社編集企画委員長・山浦修)

 上治氏 学校再開住民を元気に
 坂本氏 地方創生は中央集権的

 -上治さんと千綿さんはそれぞれの移住先で地域づくりに励んでいる。

 上治 集落支援員として移住した熊本県多良木町の槻木(つきぎ)地区は、高齢化率が約8割。言いたくはないが、いわゆる「限界集落」だ。地域を巡回して住民に花の植栽活動を呼びかけたり、福岡市に出向いて集落の野菜を販売したり…。住民を明るく元気にするのが私の役割だと思っている。

 2007年度から休校中だった槻木小が、私の長女の入学によって14年度に再開校し、地域の方々にとても喜んでもらった。この春には次女も小学校に入学、昨年6月に移住してきた30代の男性は結婚式を挙げる予定だ。児童が2人に増えて若いカップルも誕生するという明るい話題で、地域は盛り上がっている。

 千綿 佐賀県武雄市若木町は、市中心部から離れた中山間地域。人口減に歯止めをかけたくて、移住支援や空き家再生に取り組むNPO法人をこの地で2003年に設立した。放置されていた牛舎や牧草地を移住者のための宅地や作業場、店舗に再生し、06年に同県大町町から家族で若木町に移り住んだ私も、牛舎を改装した雑貨店兼カフェを11年にオープンした。活動が実を結び、これまでに14組35人が移住。牛舎があった一帯は、移住・Uターン者が工房や農業を営む小さなコミュニティー「くぬぎの杜(もり)」になった。

 NPO法人は昨年夏に解散したが、移住者たちと「むらつむぎ」という活動を続けている。この地域のことをもっと多くの方に知ってもらえるよう、小さなまつりなどのイベントを企画して、人を呼び込むことでさらなる移住支援につなげようと頑張っている。

 -地域活性化へ移住者の力は大きいと感じる。

 飯干 熊本地震が発生した際、私が住む熊本県南阿蘇村では、移住者が炊き出しなどボランティア活動の中核を担った。マンパワーが足りない小さな自治体にとって、彼らの存在はありがたいと思う。

 ただ、私は宮崎県五ケ瀬町長時代、優遇措置を設けてまで積極的に移住者を募る施策は行わなかった。まずは地元の人が自分の町を好きになることが先決。そうすれば、住民の地域愛に共鳴する人々が外部から自然に集まってくると考えたからだ。移住者なら誰でもいいとは思わない。地域の良さを本当に理解し、地域づくりの考え方を共有できる人が1人でも移住してくるならば、志を同じくする人たちが後を追って集まってくると思う。

 -政府が進める地方創生施策をどう見るか。

 坂本 地方創生は、あまりにも国から県、市町村というトップダウンで動いているように思う。国のお眼鏡にかなった地方版総合戦略に交付金が支給される姿は、中央集権的だ。

 そもそも、消滅可能性があるとされる自治体について、人口が減ったら本当に自治体が消滅するのか大いに疑問だ。地域が消えるかもしれないなどと脅かされると「もう駄目だ」という諦めが生じかねないが、この諦めが最も怖い。平成の大合併の時、「合併しなければ財政的に厳しい」と指摘された多くの自治体が実際に諦めてしまい、約1500自治体が消えた。しかし、幸いに私が心配したほど地域はまだ諦めていないというのが実感だ。地域の底力は十分残されている。

 千綿 地方には「国が金を出してくれる」「行政がやってくれる」という意識が強い。例えば農業も国からの助成金で何とか維持しているような状態だ。平成の大合併についても、合併したからには後は国が何とかしてくれるだろうと皆が思っている。その一方で、私たちがNPO法人として「空き家バンク」の事業を始めた時は「あんたらがすることじゃない」「行政や議員が考えることだ」などと言われたりもした。地域活性化の取り組みは、住民自ら考え、行動することに意味があるのに。

 飯干氏 交付金活用自治体で差
 千綿氏 移住者の起業苦労多い

 -地方創生事業に関していえば、地方にはもらえる交付金はもらいたいという思いもある。

 飯干 住民団体などと連携して、交付金を地域づくりにしっかり生かしている自治体もあれば、地方版総合戦略の策定を民間のコンサルタント会社などに“丸投げ”して、交付金をいくらかでももらえばいいという自治体もあった。

 平成の大合併が成功したという話をあまり聞かない最大の理由は、地方が浮足立ってしまったからだ。合併してもしなくても厳しい財政状況の中、国は「合併しなければ財政破綻だ」と危機感をあおり、汽車に乗り遅れまいと浮足立った自治体が多かった。地方創生も「人口減で自治体が消滅する」と危機感をあおり、「地方版総合戦略を作ったら交付金をあげましょう」という構図。平成の大合併が始まる前の空気感とよく似ている。

 坂本 逆説的に言えば、全国の市町村に1億円を一律交付した竹下登内閣の「ふるさと創生」はハード中心の事業だったので、地域に何らかのモノが残った。ソフト中心の地方創生は、下手にコンサルなどに丸投げしていては、何も残らない恐れがある。

 -若者や子育て世代が地方に移り住む「田園回帰」の動きをどう見るか。

 千綿 武雄でも、移住に関する全国からの問い合わせは確かに多い。しかし、実際に移住して定着するのは、隣県出身者とか実家が近いとか、武雄の地域性を知っている人たちだ。また、移住者が起業しても商売が成り立つまでには苦労が多い。例えば移住先で飲食店を開き、おいしいカレーで田舎に客を呼び込もうと努力しても、地元の人からは「なぜカレーが千円もすると」などと言われてしまうこともある。

 -新旧の住民が、共に地域の魅力に気づけば、それが地域の力になる。そこで地域における学校の力について伺いたい。

 上治 槻木小学校の復活を、ある住民が「暗い部屋にストーブが付いたようだ」と表現していた。ただ、今のところ学校の再開が新たな移住には結び付いていない。「小学校を大事にする町」ということを町がもっと積極的にPRすれば、田園回帰を求める若者たちがこの地に移住してくる一つのきっかけにはなると思う。

 飯干 町長時代の2007年に作った「五ケ瀬教育ビジョン」は、「過疎地の学校は少人数だからこそ手厚い教育ができる」と逆転の発想に立ち、「五ケ瀬で生まれ、育ち、生き、五ケ瀬を創造するひとづくり」をテーマに掲げた。五ケ瀬に赴任してくる教員には、「あなた方は地域づくりの最大のパートナーだ」と訴えかけていた。地域づくりは人づくりであり、その原点は教育だ。

    ◇    ◇

 集落支援員

 地方自治体から非常勤の嘱託職員といった形で委嘱を受け、集落を巡回して状況を把握、その現状や課題について住民と話し合いをし、市町村職員と協力しながら活性化に向けた取り組みをする。総務省が2008年度に過疎対策として創設した。専任支援員と自治会長などとの兼任支援員がいる。同省は専任支援員1人当たり350万円を上限に自治体へ財源を特別交付税措置する。15年度は全国198自治体で計994人、うち九州では37自治体で計155人が専任支援員に委嘱されている。

 地方創生関連交付金

 人口減少の克服や地域経済の活性化を目的とした、国による都道府県や市区町村への財政支援金。自治体が「地方版総合戦略」に基づいて進める事業などを後押しするため交付される。交付金は、観光振興やまちづくりに関する人材育成といったソフト事業が主な対象で、自治体の計画を審査して認定する。政府は17年度予算案で、16年度と同額の1000億円を計上。使い勝手の向上を求める地方側の求めに応じ、国は1事業当たりの交付上限額について、都道府県は原則として最大2億円から3億円に、市区町村は1億円から2億円に引き上げ、要件も緩和する方針。

(続)

【地域再座談会2】生かせ「よそ者」パワー

=2017/01/11付 西日本新聞朝刊=

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