田園回帰を生かすには 都市と農村 人の行き来理想

小田切徳美氏
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竹細工づくりを子どもたちに教える活動(広島県三次市の青河自治振興会提供)
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 明治大 小田切徳美教授に聞く

 都市住民が地方に移り住む「田園回帰」の流れを地域再生にどう生かすか-。田園回帰を踏まえた将来を探るため、「農山村は消滅しない」(岩波新書)の著書がある明治大の小田切徳美教授(57)に聞いた。

 ◆地域づくりとの好循環を

 -農山漁村を取り巻く環境はどう変化してきたか。

 「高度経済成長以来、農山漁村の開発は『外来型』が基本だった。1962年の全国総合開発計画でコンビナート開発などにより農山漁村を潤す路線が始まり、70年代には農村工業、80年代はリゾート開発に代わった。バブル崩壊から数年後、ようやく農山漁村に『内発的な取り組みでないと地域は再生できない』という覚悟が生まれた。以来20年、地域づくりの動きが続いており、今後どう伸ばすかがポイントとなる」

 「中国山地一帯は『過疎』という言葉が生まれた『課題先発地域』。その危機感から再生のフロンティアとしての取り組みも始まった。鳥取県智頭(ちづ)町では住民ベースの組織をつくり、地域再生を徹底論議。住民自らが事業を提案し、行政が支援した。地域からの手挙げ方式、行政が複数年度の一括交付金で支援する仕組みは、それまでの行政手法からするとタブーだったが踏み込み、体系化した。今では全国的に一般化されている。広島県三次(みよし)市は8市町村が合併した際、手づくりの自治を残したいという住民の要望から19の住民自治協議会が設けられ、事業展開している。行政から人口、地域割りなどで各組織に財政支援がある」

 -人口の減少、首都圏集中で「2040年までに896市町村が消滅」とした「増田リポート」がある。

 「国民に危機意識を持ってもらいたい意図があったのだろうが、地域には『諦め』という深刻な副作用を生んだ。イソップ童話の『北風と太陽』のように消滅の強風に吹かれて頑張れる人はめったにいない。国の集落現況把握調査で、10年以内に消滅可能性があるとされていた集落は5年後の現在も8割以上残っていた。地域はそうした強さを持っており、言われるほどもろくない。ただ強さと同時に弱さもあり、急速に地域住民の多くが諦めてしまうこともある。増田リポートは諦めと、その裏返しの『どうせだめなら国に』という依存を促した」

 「安倍内閣の地方創生での『まち・ひと・しごと』の枠組みは評価できる。地域づくりに必要なコミュニティー、人材、お金の循環が基本理念だからだ。ただ市町村が地域版総合戦略を短期間でつくり、それに交付金をという仕組みは、地域独自のスピード感を無視したものだ。また、こうした仕組みにより霞が関詣でが再び始まり、二十数年培った地方分権改革が大幅後退した。時間がかかる内発的で底上げ型の地域づくりが必要視されなくなった」

 -若者に移住傾向が出ている田園回帰は、東京一極集中の解決策になるか。

 「東京圏は、流入に対して流出人口が11万人少ない。私たちの調査では、地方への移住や出身者が古里に戻るUターンは15年は1万2千人で、この5年間で4倍に増えた。今後数年で数万人になる可能性もあり、量的に一極集中の対抗軸になる。ならなかったとしても都市から地方に移住するIターンが増えると、Uターンや、その孫の世代が『帰省』する『孫ターン』を呼び込む。数字以上に大きな評価ができる」

 -海外の動きは? 田園回帰をどう役立てるか。

 「1973年に始まったオイル・ショックを契機に、ほぼ全ての先進国がカウンターアーバニゼーション(逆都市化)を経験した。日本もごく短期間それが見られた。欧米で継続され、英国は定着している。30歳をすぎれば、湖水地方のように美しい田園のある地方に住むのが当たり前だ。ただ、英国は中小都市が連続的にあり、バス網の発達で1時間も走れば農山村に行けるなど国土構造が違う」

 「都市と農村が併存しているのが日本のユニークさ。都市の高齢者の受け入れも含めて都市と農山漁村が対等な共存関係を築くべきだ。田園回帰は東日本大震災以前から動きがあり、長期的なトレンドは続くだろう。しかし、一方通行の田園回帰というより、多様な場所で暮らし、都市と農村の間を人が行き来するのが理想だ。地元の人が地域づくりに踏みだし、地域を磨けば、移住者が、それを進める『田園回帰と地域づくりの好循環』が生まれる。住民が地域の良さを見つける当事者意識を持ち、焦らずに地域を磨けば、移住者は引き寄せられる」

 小田切 徳美氏(おだぎり・とくみ) 1959年、横浜市生まれ。東京大大学院農学研究科博士課程単位取得退学。高崎経済大助教授、東京大大学院助教授などを経て現職。著書に「日本農業の中山間地帯問題」、「農山村再生に挑む-理論から実践まで」(編著)など。

 条件不利地域における集落の現況把握調査  条件不利地域における集落の現況把握調査 国土交通省、総務省が1028市町村に昨年4月時点で行ったアンケート調査。65歳以上の高齢者が住民の半数以上を占める集落は全体の20・6%あった。一方、市町村が「今後10年以内」か「いずれ」消滅可能性があるとした集落は同4・8%。前回調査(10年度)で「10年以内に消滅可能性がある」とされていたが存続している集落は、全国で87・2%、九州は84・9%だった。

 ◆「学校を地域の宝物に」

 中国山地の懐に抱かれた広島県三次市青河町。農村風景が広がる同町には、住民が守った青河小学校を拠点とした自治活動がある。

 「学校を地域の宝物として扱うのが自分たちの役目」と語るのは、青河自治振興会長の岩崎積(つもる)さん(65)。分校時代の卒業生で、運動場を住民たちが手作業で造るのを見て育った。

 青河小に2002年、存続の危機が迫ったことがある。市内5カ所の統廃合候補の一つに挙がったのだ。その6年前、校舎が建て替えられたが、PTA会長だった岩崎さんは、児童数がいずれ2桁を割ると予想し住民と対応に知恵を絞った。移住者誘致に住民9人で出資金を出し合い、住宅整備会社「ブルーリバー」を設立。融資を受けて住宅建設を始めていた。新住民の地域づくりへの協力を願い、(1)小学校以下の子どもがいる(2)学校教育への理解、協力がある(3)地域行事に参加する(4)地域組織に加入する-を条件に入居者を募集。横浜市、広島市などからも移住者があり現在、14家族63人が暮らす。

 活動が認められて残った小学校の敷地に立つ青河コミュニティセンターは住民自治の拠点だ。高齢者の買い物、通院などのボランティア送迎や役所への申請手続き支援、電化製品の修理手伝い、子どもと大人が野外活動などで触れ合う事業など活動の幅は広い。同市のどぶろく特区認定を受けて今年2月、住民出資で会社を設立。レストラン運営やどぶろく販売も行う。

 1市4町3村が04年に合併した同市は公民館を廃止。市内19地区に住民自治組織の自治振興会を設け、コミュニティセンター運営を任せた。各振興会の人口に応じた交付金、住民発案の事業への補助金など年間計約3億円を財政支援する。

 移住者に対し岩崎さんは永住を求めず「住み分け」を提案している。「請われれば古里に帰ったらいい。うちが増えれば、どこかが減る。人口の取り合いの時代じゃない」と。そして住民自治についてこう助言する。「各地域に特色、歴史がある。どうするかは自分らで編み出すことです」

=2016/10/28付 西日本新聞朝刊(オピニオン)=

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