今、このまちに注目(下) 地域の明日を描くキーワード

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徳島県神山町にできたIT企業のサテライトオフィス
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移住政策で、群馬県南牧村は脱「消滅可能性都市No.1」を目指す
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新潟市・沼垂の商店街で開かれている朝市(テラスオフィス提供)
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 ◆起業 通信インフラが後押し

 「ここで生きるネット」メンバーの推薦などを基に、活性化に積極的な地域を選んで紹介する「今、このまちに注目」。今回は「起業」「移住」「住民自治」「商店街」をテーマに、挑戦を続ける「まち」を取り上げた。各地の事例から地域の明日を描くキーワードを読み取り、同様の取り組みをしているほかの地域に関心を広げることは、「ここで生きる」ために有用だろう。

 起業を後押しして、定住人口の確保やにぎわいの創出を目指す地域も多い。通信インフラを整えることが、第一歩のようだ。

 徳島県北東部の山間部にある神山町は2004年、四国で初めて全戸に光ファイバー網を整備し、快適にインターネットが利用できる環境をつくった。自然環境に恵まれていることも武器に、IT企業などの誘致と拠点整備に力を入れてきた。現在は16社が改装した古民家などにサテライトオフィスを構え、スタッフが移り住んでいる。

 沖縄県久米島町も全国に先駆けて全島に公衆無線LAN「WiFi(ワイファイ)」サービス網を整備し、起業支援にも取り組んでいる。WiFi網を生かした農産物地産地消システムも導入している。

 〈「ここで生きるネット」メンバーでNPO法人離島経済新聞社統括編集長の鯨本(いさもと)あつこさん「久米島町には人を育てる地域性、地元で生まれる新規事業を応援する風潮、経営者が早期に次世代を育てる好循環がある」〉

 ◆移住 「わがまち」の個性生かし

 「地方移住の推進」は地方創生の重点施策の一つ。“競争相手”が多い中、自治体や地元住民たちによる移住対策は「わがまち」を見つめ直すことから始まっている。

 群馬県南牧(なんもく)村は長野県との県境にある農山村。高齢化率は60・5%(2015年の国勢調査)と日本一高い。民間シンクタンク「日本創成会議」が発表した消滅可能性自治体の中で最も消滅の可能性が高いとされた。ワースト1ながら「知名度」が全国に高まったことをチャンスととらえ、村は積極的に移住政策を推し進め、空き家整備などに取り組んでいる。地元の高齢者も、移住政策の輪に加わっている。

 福岡県福津市では、まちおこし団体「津屋崎ブランチ」を中心に、旧津屋崎町地区で(1)移住支援(2)古民家再生(3)起業支援(4)対話支援を柱にした地域振興を実践。最寄りの鉄道は廃止になったものの移住によって人口が増え、活気づいている。団体代表の山口覚さんは(1)「競争」から「協力」(2)「所有」から「共有」(3)「依存」から「自立」-のキーワードを掲げる。

 2年間で約50人の移住を受け入れた熊本県小国町。官民の関係者が2週間に1回集い、空き家の確保や、移住希望者と移住先のマッチングなどについて情報交換。住民との交流会を開いたり、移住者用の「ごあいさつ先リスト」を作成したりと、定住支援もきめ細かい。小国を気に入った先人が移住者を呼び込む「移住の輪」の広がりも強みだ。

 〈ネットメンバーで九州大大学院教授の佐藤宣子さん「小国町には大学院の修士課程を修了後、単身Iターンをして森林組合で活躍する女性がいる。このように農山村に飛び込んで、地域に根差してがんばっている若者はたくさんいる」〉

 ◆住民自治 知恵と力を出し合って

 行政だけに頼らず、そこに住む人々が知恵や労働力、資金を出し合って「まち」を再興する。そんな住民参加型の取り組みは、地域ごとに個性が光る。

 山形県酒田市では、公募で集まった市民委員100人が「酒田市総合計画未来会議」を立ち上げ、総合計画策定を進めている。分かりやすい市政情報の共有で市民が「自分ごと」として捉え、自治体財政シミュレーションゲーム「SIM2030」を使った対話で課題を整理し、未来を描く官民協働のワークショップは異例。ゲームは熊本県職員有志が開発したもの。九州発のノウハウによるまちづくり実践としても注目されている。

 宮崎県西米良村の小川集落には、住民組織が運営する観光施設「おがわ作小屋村」がある。村が2009年に整備し、集落の住民91人は年間約2万人を受け入れている。若い世代の移住もあり、10年前に比べて集落の高齢化率は70%から59%に下がった。同村は村外者が農家で働きながら滞在するワーキングホリデー制度を1998年に導入するなど、早くから「地方創生」に取り組んでいる。

 島根県雲南市は中国山地の6町村が2004年に合併してできた。過疎の危機を地域づくりの転機と捉えて、「新たな地縁モデル」の創出に挑戦する。人口約4万人の市域を段階的に30の地域自主組織に再編成し、「小規模多機能自治」を目指す。高齢者見守り、買い物支援など地域課題の解決先進地を掲げる。「子ども」×「若者」×「大人」のチャレンジ事業連鎖も注目されている。

 〈ネットメンバーで日本ファシリテーション協会フェローの加留部貴行さん「雲南市では地域自主組織の取り組みを紹介する『元気な地域づくり活動発表会』が定期的に開かれている。この“地域自慢大会”を通じて地域活動を切磋琢磨(せっさたくま)していく仕掛けが注目される」〉

 ◆商店街 シャッター上げ元気発信

 「シャッター通り」は疲弊した地方を象徴する言葉の一つだがシャッターを上げて商店街からまちを元気にしようという動きも生まれている。

 新潟市中央区の信濃川河口にある古い町・沼垂(ぬったり)市場通りに、地元経営者が手づくりの洋風総菜店を開店したのが2010年。その後2年続けて家具と喫茶の店、陶芸工房をオープンする若者が相次ぎ、魅力を発信したことから出店希望者が殺到した。15年春、「沼垂テラス商店街」として生まれ変わった。建物を改装する手法を取っており、同商店街近くでは昨年、古民家を改装した簡易宿泊施設も営業を始めた。

 宮崎県日南市の油津商店街は、県南部最大の規模を誇った。空き店舗が目立つようになったが、同市が公募した再興請負人に333人の中から選ばれた町づくりコンサルタントの若者は家族と移住、2013年から4年で20店舗の誘致を達成した。取り組み継続のため、「自走する商店街づくり」をテーマに、住民と協力して新たな運営方式も構築した。

 〈ネットメンバーで前宮崎県五ケ瀬町長の飯干辰己さん「日南市は外国客船寄港による経済浮揚や飫肥(おび)杉の活用など、自前の施策を次々と展開中だ」〉

 ここで生きるネット 本紙が連携する、地域活性化に携わる50人のネットワーク。メンバーは九州在住を中心とした学識者や実践者、行政の担当者らで、紙面を通して地方の未来を見据えた「現場起点の知恵」を発信してもらう。「今、このまちに注目」に取り上げた地域は、メンバーが回答したアンケートを基に選んだ。

=2017/02/10付 西日本新聞朝刊(オピニオン)=

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