地域に学び、地域を支える 高知県四万十町(下)

石井創さん(左)と協力隊の野村一将さん一家
石井創さん(左)と協力隊の野村一将さん一家
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勝秀鍛冶屋で修行する菊池祐さん(右)と師匠の松村幸作さん
勝秀鍛冶屋で修行する菊池祐さん(右)と師匠の松村幸作さん
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町営塾で高校生に勉強を教える松本千花さん(左から2人目)と小林玲央さん(右端)
町営塾で高校生に勉強を教える松本千花さん(左から2人目)と小林玲央さん(右端)
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中尾博憲町長
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 町営塾の講師役、鍛冶屋の技術伝承…。高知県四万十町では、地域おこし協力隊の姿をあちこちで見かける。過疎高齢化で「地域の持続可能性」が揺らぐ中、協力隊に起爆剤の役割を期待する市町村は多いが、21人もの大量採用は珍しい。キーワードは「地域に学び、地域を支える」-。全国から集う“よそ者たち”が活路を開けるのか。

 協力隊21人、多彩な勤務

 熊本県から妻と当時2歳の長女を連れて移住して2年余り。協力隊の任期は最長3年で野村一将(かずまさ)さん(34)にとっては最終年度だ。地域への貢献度を問うと、「家族でこちらの方がお世話になってます」と笑う。

 3月までは、大正地区の奥四万十を担当。集落の女性団体が廃校を利用して年2回開くバイキングの催しや、地域の神祭などを支援した。4月から担当は町役場がある窪川地区に変わったが、休日には奥四万十の住民に会いに家族で通う。

 熊本では西原村の観光牧場で約10年働いた。「経験を生かし、将来は子どもと動物との触れ合いに関わる仕事をしたい」。夢を実現させる第一歩として選んだのが、故郷の高知市に近い土地での協力隊だった。

 退任後は、四万十町を拠点に移動動物園を始める計画。「自分の好きな仕事で地域のにぎわいづくりに貢献したい」。昨年8月に生まれた長男を含め家族4人で定住することで町への恩返しになればとも思う。

 同町では2012年度、協力隊員2人を初採用。現在21人の出身地や前住所は東京、福岡、大分など18都府県に及ぶ。退任した11人のうち7人が定住している。

 東京出身の石井創(はじめ)さん(30)は「町内を循環する観光の仕組みづくり」が任務。来春の退任後も定住しゲストハウスを開く構想を描く。「一人一人の力は小さいが定住するOBやOGが増えれば、将来、大きな戦力になれる」と強調する。

 貢献度に疑問

 同町では、協力隊を募集する段階で「具体的な任務」を明示する方式をとる。観光振興や地域づくりにとどまらず、ほかではあまり聞かないユニークな任務も少なくない=表参照

 神奈川県出身の菊池祐さん(32)は「むらの鍛冶屋さんの技術伝承」という任務に引かれた。「協力隊というより鍛冶屋の技術を学べるから来た」。神奈川では工員として10年超働き、年功序列の会社員生活に見切りを付け妻の未来(みき)さん(36)と移り住んだ。

 十和(とおわ)地区の勝秀(かつひで)鍛冶屋で師匠の松村幸作さん(78)の下、技術を磨く。もともと林業が盛んな土地柄。地区では昔は鍛冶屋が多かったが、今残るのは枝打ちなどに使うなたが得意な松村さんの店だけ。その技術が途絶えるのを町は恐れた。

 菊池さんの任期も残り8カ月。「教えられることは全部教える。息子もやってくれんかった跡を継いでくれることを感謝しちゅう」と松村さん。この地に残り3代目を継ぐ決意の菊池さんには気がかりがある。公費で雇われている協力隊が、町に貢献できているかという疑問だ。

 「会社員時代にはあった自己評価の仕組みが協力隊にはない。毎年何をやり、どんな成果が出たか問われることもない」。町幹部に疑問をぶつけ、十和地区では各隊員が業務目標を自己申告する制度が新設された。菊池さんは「明確な目標と評価を示すことで、町民の協力隊に対する信頼度が上がればいいと思う」と願う。

 町営塾で魅力アップへ 生徒減で高校存続の危機

 夏休み前の7月11日夕。四万十町役場に近い窪川地区にある町営塾「じゆうく。」に、授業を終えた窪川高校の生徒が集まった。講師役の地域おこし協力隊員らが用意した数学の問題に生徒たちは取り組んだ。

 2町1村が11年前に合併した人口1万7千人余の同町には県立の窪川高校と四万十高校があるが、生徒減で存続の危機が指摘される。「高校が消えれば、子育て世代の減少が加速しかねない」。そんな危機感から「高校の存続と魅力化」を狙い町は昨年11月、全国でも珍しい町営塾を開設した。

 講師役は公営塾の運営実績がある民間会社の3人と「高校魅力化」の任務を担う協力隊員4人。窪川と大正の2教室で週5日開講。受講は無料。通塾届を出す生徒は計66人で両校生徒の4割強。ただ出席は両教室とも毎回10人ほどという。

 高校社会科の教員免許を持つ横浜市出身の協力隊員、小林玲央(あきお)さん(29)は「継続的に塾に通ってもらうことが目標だが、難しさを感じます」。今後の課題として「進路指導での高校側との連携強化」を挙げた。

 「じゆうく。」は働く意味や農業の面白さなどを考える「探究学習」にも力を入れる。兵庫県出身の協力隊員、松本千花(ちか)さん(24)は「外の世界を知って、自分の可能性について関心を深めてもらうサポートができれば」と思いを語った。

 「人口づくりが人口減対策の鍵」 中尾博憲・四万十町長に聞く

 なぜ地域おこし協力隊なのか。「人づくり」を人口減対策の鍵と強調する四万十町の中尾博憲町長(63)に聞いた。

 人づくりで言えば、起業を目指す若い人材を町にとどめて育成する。もう一つは、他地域で活躍した人材を町内に入れてプレーヤーになってもらう。後者が地域おこし協力隊です。各協力隊が担うミッション(任務)は、町の政策課題に照らして決めている。町内の人や産業と触れあう中で、町外の新鮮な目で町の魅力を再発見してもらいたい。退任後の進路を見ても定住率は高い。わが町が起業なり、雇用なりで食べていける環境にある証しだ。

 町営塾については、高校までは町内で教育を受けられる環境を維持するのが目的。大学を狙える学力はもちろん、自ら考えて行動し、広い視野を持つ「生きる力」を付けてもらいたい。

 目指すのは、子どもからお年寄りまでが笑顔で暮らせる町、3世代同居の家族が集まる町、ブータンのように幸福度が高い町です。

=2017/08/04付 西日本新聞朝刊=

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