【復活可能性都市へ】(1)再生の光で起業探る 共有原野と互助を力に

太陽光パネルが一面を埋める共有原野。荒木和久さん(右)ら水増集落の住民たちで設置を決めた=熊本県山都町
太陽光パネルが一面を埋める共有原野。荒木和久さん(右)ら水増集落の住民たちで設置を決めた=熊本県山都町
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 奥深い山里に、近代的な「鏡の山」が突如現れる。

 九州のへそに当たる熊本県山都町。800年の歴史を持つ水増(みずまさり)集落の小高い原野には、8千枚の太陽光発電パネルがびっしりと張り付いている。

 10世帯18人の小集落。うち8軒が共同で所有する原野は、牛の放牧が戦後しばらくして途絶えた。毎年春の集落総出の野焼きだけは何とか続けてきたが、腰を折ってよじ登る急斜面は、平均年齢73歳の体には厳しい。原野は荒れた。

 集落の荒木和久(71)は、福島第1原発事故後に増えた再生可能エネルギーのニュースが気になっていた。メガソーラー事業者と候補地をマッチングする県事業を町役場で聞いた荒木はその夜、急きょ公民館に全住民を集めた。

 「金も何も持たんばってん、おったちには原野がある。立候補してみようや」

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 メガソーラー建設には中国や東京など大手を含む十数社が名乗りを上げた。多くが年間500万円前後の原野の賃借料を提示した。ベンチャー企業「テイクエナジーコーポレーション」(熊本県菊陽町)は違った。8軒に支払う賃借料500万円とは別に、会社の売電収入の5%を原資にして会社と集落の共同事業を始め、農産物加工などに活用する計画を提案した。

 「少しでも金を回そう」。テイク社会長の竹元茂一(65)の呼び掛けに、近い将来の集落の消滅を予感していた住民たちは奮い立った。「子や孫が安心して戻ってこられるよう仕事をつくる」。限界集落に、復活ののろしが上がった。

 2013年、地権者たちで「水増ソーラーパーク管理組合」を設立、荒木は組合長になった。集落でほそぼそと作られていた大豆が希少種と分かり、「八天狗(はってんぐ)」と商標登録。昨年には納豆や煮豆を「幻の大豆」として試験販売も始めた。

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 昨年末の昼下がり、パネルそばに立つ神社を参った荒木たちが公民館に集まった。長机には、お神酒の一升瓶とおでんや漬物。荒木しずよ(67)が、石油ストーブにかけた鍋から熱かんを取り出した。しずよの夫正二(67)、荒木久美子(72)らのおしゃべりは、世間話から集落の未来へと熱を帯びていった。

 「今んままで良かわけなか。大豆とかタケノコの加工品ば作って、営業に回って、さるかんと」

 「1、2年で何でも実現でけん。一歩ずつな」

 寄り合いはいつもこう。一升瓶は見る間に減った。

 組合ではテイク社との共同で、八天狗を使った料理を提供する農村カフェや、空き家を活用した農家民宿の構想も上がる。みんなで出し合ったアイデアだ。

 「小さか集落。何でん話して、何でん一緒にやってきた」。先祖代々、住民たちは農作業や冠婚葬祭といった日々の営みを助け合ってきた。荒木は、この集落共同体こそ、共有原野とともに水増のかけがえのない財産と思う。

 集落の明日を照らすように、パネルに夕日の光が差した。酔いが回った荒木や正二を横目に、しずよや久美子たちが茶をすすり、声をそろえた。「ご先祖様に感謝よなあ」 =敬称略

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 民間シンクタンクが2014年、急激な人口減少に陥る自治体として、九州の半数に当たる125市区町村、全国の896市区町村を「消滅可能性都市」と指摘した。その衝撃から3年半。名指しされた都市であっても、地域で、集落で、再生に取り組む人たちがいる。「復活可能性都市」を目指す新たな息吹を、九州の現場で探した。

=2018/01/07付 西日本新聞朝刊=

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