「ここで生きるネット」発 神谷禎恵・生活工房とうがらし代表取締役

神谷禎恵さん
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◆宇佐の「食の風景」

 私の活動拠点、台所だけの建物「生活工房とうがらし」は大分県宇佐市にある。21年前、足元にある料理を研究したいと母の金丸佐佑子が建てたものだ。田園風景の中にポツンとある建物には今台所、昔台所、外台所、囲炉裏(いろり)と畑、果樹園がある。隣接するため池にはこの時期、古代蓮(はす)が満開だ。周りの田んぼでは米や麦が作られ、四季折々の風景を見せてくれる。このあたりは宇佐平野のみならず、遠浅の豊前海や、駅館川、安心院盆地や院内の谷々から実りの恩恵にあずかっている。太古の昔から、このあたりは豊かだったのだと思う。

 そんな宇佐で足元の料理を「伝承料理」と名づけて研究を続けた母。その背景には母方の祖母の影響もある。私も「食」について考える機会をたくさん持ってきた。祖母や曽祖母の時代は、海産物を商っていたそうだ。豊前海の豊かな実りを、瀬戸内式気候を生かし、乾物にし、食卓を潤してきたのだろう。

 私が育った、同市長洲は海辺にあり、赤エビが水揚げされれば茹(ゆ)でて、干して、たたいて、「かちえび」にする。いくつもあった「海老舎」の庭先には、一面に筵(むしろ)が敷かれ、茹で上がったエビが干してあった。水路はいい香りの茹で汁で真っ赤に染まったものだ。長洲では、製麺工場が軒を連ね、天日に干されるそうめんが、白いレースのカーテンのごとく風にそよぐ様子も、毎年恒例の風物詩となっている。だから真夏には、そのそうめんを、エビの茹で汁や、「かちえび」の出汁(だし)で食べるのもごく自然の流れだったと思う。この時期に欠かせない食卓の風景である。

 山々が谷をつくり、山からの水が川となり、平野を潤し、米や麦、野菜をつくる。山や田んぼ、畑の滋養が川を流れて、遠浅の海を豊かする。貝や、エビや、魚を育てている。この地域(国東半島宇佐地域の6市町村)が世界農業遺産として認定されている理由でもある。おいしい記憶は、しあわせの記憶であり、食卓の風景になると思っている。

 昨年、文化芸術基本法に「食文化」の項目が盛り込まれ、食文化の振興も図られるようになったと聞く。そんな食の風景を次の世代につないでいきたいと思う、この頃である。

 神谷 禎恵さん 1966年生まれ、大分県宇佐市出身。フードプロデュサーとして大分県を中心に食の発信を続けている。九州初の調味料ソムリエプロでもある。著書は「大分県のしいたけ料理の本」。

=2018/07/22付 西日本新聞朝刊=

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