日本最南端の出版社「南山舎」 八重山の「豊かさ」発信 方言辞典、戦争記録…独自性に光

沖縄県石垣島の南山舎で、「月刊やいま」を手にする上江洲儀正さん
沖縄県石垣島の南山舎で、「月刊やいま」を手にする上江洲儀正さん
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 沖縄・八重山諸島の歴史をはじめ、島々で受け継がれてきた伝統や文化、生活情報などを発信し続ける出版社が石垣島にある。島育ちの上江洲(うえず)儀正さん(66)が1987年に設立した「南山舎」。竹富島の方言をまとめた初の本格的な辞典を出版し、菊池寛賞を受賞したことも。「日本や沖縄とはひとくくりにできない八重山の姿を伝えたい」と、最南端の出版社としての視点にこだわり続ける。

 上江洲さんは石垣島の高校を卒業後、役者を目指して上京。アルバイトで腰を痛めて夢を諦め、早稲田大第二文学部に入学後、雑誌図書館の「大宅壮一文庫」で11年間働いた。あらゆるジャンルの雑誌を読み、本製作のいろはを学んだ。

 たまの里帰りが島の魅力を見直すきっかけとなり、86年に帰郷。「何でもある」と思っていた東京にいては気付かなかった固有文化の豊かさを再確認した。地域の祭りや自然の移ろいを書き留めるうちに、年間行事の日程を記した実用手帳を作ってはと思い立ち出版社を設立。約2千冊を完売した。2011年出版の「竹富方言辞典」は竹富島出身の元小学校長が20年以上かけて集めた2万語近くの方言を収録。1500ページを超える大書で、標準語普及の影響で消えかけていた方言を掘り起こし、その年に菊池寛賞を受賞した。

 不動産や求人情報、イベントなど幅広く収録した生活情報誌「月刊やいま」は創刊26年を過ぎ、今や南山舎の顔と言えるほどに地元で定着している。情報誌でありながら太平洋戦争など骨太なテーマも取り上げる。別冊のシリーズ「八重山に立つ」は1996年から3冊出版。1冊目は「八重山の戦争」に光を当てた。太平洋戦争中に軍命令で退去させられた住民がマラリア蚊に苦しんだ山中や、赤瓦が散乱する慰安所跡、米軍の上陸を予想して築かれた塹壕(ざんごう)など、著者の元石垣市職員とともに、八重山の戦跡を歩いて見つめた。

 国境沿いの島々が、本土防衛の役割を求められるのは現在も変わらない。そんな問題こそ地域に誇りを持つ島民で考え、決める覚悟が必要だと思う。「本土や沖縄本島とは一線を画す八重山の独自性は、その地に暮らして初めて見えてくる。日本の端っこの地元メディアとして発信を続けていきたい」

=2018/08/10付 西日本新聞朝刊=

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