「ここで生きるネット」発 高野 和良氏 九州大大学院人間環境学研究院教授

高野和良氏
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 ◆真の「地方創生」

 折にふれ訪ねている大分県の過疎集落が、80代の女性高齢者の1世帯1人になった。昨冬、薪(まき)で風呂を沸かしている少々煙たい部屋で、少しだけお話を聞くことができた。自分が集落で最後の1人になるとは思いもよらなかっただろう。しかし、人よりイノシシの方が多く、何かと不便でも、この集落に住み続けたいと話してくれた。

 この集落がある地域を対象に、約10年間隔(1996年、2007年、16年)で3回のアンケートを行ってきた。ほぼ同じ設問を用いた、過疎地域の人々の意識変化をたどる貴重な資料である。そのなかに、「いま住んでいる地域が好きですか」という設問がある。人は減り、商店は店をたたみ、買い物をする場もない。合併で役場の人も少なくなった。それでも、8割を超える人が地域に愛着を持ち、しかも、この20年間でその割合は少しずつ増えている。また、この地域に住み続けたい人も8割を超えている。

 一方で、子どもや孫にも住んでほしいという人は大きく減った。さらに、これから生活の場として良くなっていくという人の割合は減り続け、わずか4%になった。地域に愛着はあるが、その将来に希望を持てない人々が多数を占めていることが、過疎地域の抱える大きな問題であろう。

 冒頭の集落には、集落全員で支えてきた小さな社があったが、女性はたとえ1人になっても、誰が来ても恥ずかしくないように掃除を続けていると話してくれた。1人での暮らしは、孤独かもしれない。しかし、自分がここで暮らすことに意味があると実感できることが、地域への愛着を支え、暮らし続けるための一つの支えになっているように思う。

 「地方創生」という言葉が使われるようになって久しい。だが、ここでの地方とは、交流人口論のような都会の人々によって選ばれ、消費される地方であって、過疎地域の人々の立場に立った地方の姿は見えてこないように思う。究極の人口減少社会のただ中にいる過疎高齢者の暮らしから何を学ぶのか。そこに暮らすことに手応えを実感できる地域をどのように創っていくのか。もう一つの地方創生論が必要だと考える。

 高野 和良氏 1963年生まれ、熊本市出身。九州大大学院文学研究科修士課程修了。山口県立大教授などを経て現職。専門は地域福祉社会学。

=2019/02/03付 西日本新聞朝刊=

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