介護職 辞めたくないのに 【第13部】老いの支え手 支えるには<1>

あるグループホーム。認知症女性の足を、介護福祉士は会話のテンポに合わせるように、優しくゆっくりさすっていた
あるグループホーム。認知症女性の足を、介護福祉士は会話のテンポに合わせるように、優しくゆっくりさすっていた
写真を見る

 お年寄りはかわいい、と福岡市のグループホームに勤める介護福祉士の卓也さん(30)=仮名=は言う。

 若いころに戻って卓也さんを恋人だと思ったり、普段は反応があまりないのに運動会では球速60キロ近いボールを投げたり。かと思えば、若くして夫を亡くし1人で子育てした利用者の女性は、スタッフから恋愛相談を持ちかけられたりもする。多くの喜怒哀楽を積み重ねた人ならではの深み。「その人の人生と深く関われる仕事。他の業種にはない楽しさがある」

 しかし、同年代の同僚は「2人目の子どもが生まれる」「結婚する」などを理由に、別の仕事に転職していく。

 卓也さんも結婚したい相手がいるが踏み切れない。月に6~7回夜勤に入り、手取りは約18万円。介護業界に経営のノウハウを取り入れようと、別の業種に転職していたころの3分の1だ。介護の現場に戻り、勤続5年で基本給の上がり幅は7千円。退職金制度もない。家庭を持ち、生計中心者になると、経済的に厳しいだろう。

 職場は離職が相次ぎ、ベテランが育たない。施設を運営する法人のグループ内で、3年以上勤める職員は70人中9人だけ。配置基準は満たしても常に人手不足感がある。求人への応募はなく、派遣社員を社員として採用すると紹介料約30万円を支払わなければならない。経営のさらなる圧迫が、賃金上昇を難しくする。悪循環に陥っている。

 □ □

 介護の人手不足は深刻だ。2015年の介護分野の有効求人倍率は2・59で、全職業の1・08を大きく上回る。

 介護職は少しずつ増えてはいるが、急増する高齢者の需要に追い付かない。

 約177万人(14年度)いる介護職は、団塊の世代全てが後期高齢者となる25年度には253万人が必要。現在のペースで介護職が増えても、38万人が足りないと推計されている。

 厚生労働省の15年調査によると、福祉施設介護職員の月収は約21万円で、全産業平均より約9万4千円少ない。離職のベースに低賃金がある。だが、理由はそれだけではない。

 介護職などを辞めた約5千人の離職理由を調査した厚労省の研究事業(16年)では、介護職に戻っていない人のうち、「能力や適性のある人材」に絞って離職理由を分析した。

 すると、女性は出産などの「ライフイベントなどの事情」が29・5%に上り、「低賃金」の19・5%を超えた。男性は「低賃金」に次ぎ、休みが取れないなどの「労働環境、成長の機会・将来性」が高かった。女性も男性も9割近くが、介護にやりがいを感じていた。

 □ □

 給料は安いが、介護の仕事が好きだから続けていた人が、他の要因を引き金に離職する-。そんな現状がうかがえる。

 介護は人と密着度が高く、他の仕事と比べ、向き不向きがはっきりしているといわれる。やりたい人が続けられる環境を整えることが急務だ。

 公益財団法人介護労働安定センターの顧問、野寺康幸さんは著書「危機にある介護労働」(労働新聞社刊)の中で、現在の人手不足の状況を「介護職の良心的ストライキ」と呼ぶ。労働環境改善を訴えて介護現場でストライキをすると、利用者の命を脅かしてしまう。そのため、改善を訴えること自体を諦め「二度と介護の仕事に戻らない」選択をする。

 「この仕事をずっと続けたい。でも続けられるのだろうか」。卓也さんは不安を口にする。

 辞めたくないのに、辞めざるを得ない。人材不足なのに、矛盾した事態が起こっている。

    ◇    ◇

 超高齢社会の支え手となる介護職。やりがいを持つ人までも、現場を去らざるを得ない現状がある。私たちは介護職の「生きる、働く」をどう支えるか。現場から考える。 


=2016/08/30付 西日本新聞朝刊=

西日本新聞のイチオシ [PR]

西日本新聞のイチオシ [PR]