キャリア つなぐために 【第14部】このままでいいの?転勤<中>

北九州市の実家で娘をあやす寺田麻緒さん
北九州市の実家で娘をあやす寺田麻緒さん
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 今年1月、福岡市の福岡銀行IT管理部に、新たな戦力が加わった。広島銀行から再就職した今村由美子さん(30)=広島市出身。福銀は「銀行業務の知識があり、ITにも精通している人材はなかなかいない」と歓迎した。

 今村さんは広銀から福岡市のIT企業に出向していたときに、現在の夫(32)に出会った。結婚するなら一緒に住みたい。でもまた転勤で広島に戻るだろう。ならば自分が退職するしかない、と自然に考えた。

 国立社会保障・人口問題研究所の2015年の調査では、働く女性の約17%は結婚すると退職し、そのまま働き続けた女性も、1人目の子の出産前後で約47%が退職していた。積み重ねたキャリアは、そこで寸断されてしまう。

 「30代で女性で結婚していて、銀行に再就職するのは難しい。金融関係の契約社員か派遣社員をすることになるのかな」。半ば諦めかけていたときにできたのが「地銀人材バンク」だった。

 結婚や配偶者の転勤、家族の介護のために地方銀行を退職し、遠方に引っ越す行員に、転居先の地銀を紹介する仕組み。普通は退職とともに失効してしまう金融商品の販売資格なども一部は引き継げる。全国の64地銀が昨年4月、多様な働き方の実現に向けて創設した。

 「紹介」なので採用するかどうかは相手の地銀次第だが、9月末までの1年半で、全国で女性106人が応募し、73人の再就職が決まっている。応募時点で採用枠がなかったケースや不採用は4人だった。

 今村さんは7年間の業務経験を次につなげられた。福銀の親会社ふくおかフィナンシャルグループの人事統括部副部長高鍋優子さん(54)は「銀行は専門知識が必要で、人材の育成には時間も費用もかかる。以前は辞めるしかなかった行員がキャリアを継続できるのは、本人にも銀行にもメリット」と話した。

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 ドイツ南部にある病院の分娩(ぶんべん)室。午後11時を回ったころ、寺田麻緒さん(29)は夫(31)の手を握り締めて、3600グラムの女の子を出産した。「頑張ったね。リンゴがつぶれるくらいの握力だったよ」。夫の言葉に笑い合った。

 北九州市職員の寺田さんは出産5カ月前から「配偶者同行休業」を取った。配偶者が海外で働いたり留学したりするときに最大3年間休業できる。市が昨年1月に制度をつくるとすぐに申請し、その年の5月にメーカー勤務の夫の赴任先ドイツに渡った。「日本で産むと、夫はいきなり父親になってしまう。そうではなく、おなかが膨らんでいく過程も見ていてほしかった」

 こうした休業制度は政府が14年、国家公務員を対象に導入した。海外赴任により夫婦の一方が辞めてしまうことを防ぐ狙いがあった。これを受けて地方公務員法が改正され、各自治体も条例で制度を設けられるようになった。

 北九州市では、休業中の業務は配置換えや臨時職員などでカバーし、復職時は以前の職場に戻れる。寺田さんは上司から「仕事には代わりがいる」と背中を押され、安心してドイツに行けた。

 「結婚、出産しても一生続けられる仕事をしたい」というのが寺田さんが地元市役所を就職先に選んだ理由だった。夫の国外転勤は想定外だったが「私の経験は今後の仕事に生かせるはず。市役所は多種多様な市民のために仕事をしているのだから、職員も多種多様な方がいい」。

 辞めてもキャリアが無駄にならない制度。休業してキャリアを維持する制度。転勤の弊害を乗り越える仕組みが、少しずつ広がっている。


=2016/11/04付 西日本新聞朝刊=

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