障害に気付き 福祉へつなげる 【第15部】孤立させない 生活困窮者<3>

説明書にひもを通す作業に取り組む恵さん
説明書にひもを通す作業に取り組む恵さん
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 紙を折って箱にしたり、説明書にひもを通したり。10人ほどが黙々と指先を動かしている。障害者の生活訓練や就労支援に取り組む北九州市の「多機能型事業所ほうぼく」。恵さん(62)=仮名=がここに通うようになったのは1年ほど前、知的障害と診断されたからだ。それまでは60年以上、何の福祉サービスも受けてはこなかった。

 高校卒業後、短大に入ったが卒業できなかった。仕事に就いた経験はない。19歳で父を亡くし、残された貯金と遺族年金で母と2人で暮らしてきた。昨夏、母が亡くなり、心配した近所の民生委員が市の生活困窮者自立支援制度の窓口につないだ。

 「最初は就労に向けた支援をと、適性検査を受けてもらったんですが、受け答えがあいまいで、これは福祉だと」

 市の支援業務を請け負うNPO法人抱樸(ほうぼく)の支援員、大山知絵さん(53)は振り返る。

 自宅を訪れると、台所や風呂は使った形跡がほとんどなかった。専門医の診断で中度の知的障害と分かった。「今は(支援員に)会えるのがうれしい」。恵さんは笑顔を見せた。療育手帳を取得し、2カ月で13万円ほどの障害基礎年金を受け取る。

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 経済的に困っていたり、就職がうまくいかなかったりという悩みの背景に、障害が疑われるケースは実は少なくない。

 厚生労働省によると、2015年度、全国119自治体の自立支援制度の窓口が新規に受け付けた相談5万8千件のうち「障害の疑いがある」とみなされたのは5・7%に上った。

 恵さんのような知的発達の遅れは、多くが成人前に出現するとされている。だがかつては「世の中の偏見が強く、障害者と診断を受けるのに抵抗が強い親御さんも多かった」(相談員)という事情があった。

 近年は、知的な遅れがなく、一見して分かりにくい障害があることも、一般に知られるようになっている。

 「私、これだと思うんです」。発達障害について書かれた本を手にした愛さん(49)=仮名=が、熊本県内の役場の相談窓口で訴えたのは6年ほど前のことだった。

 小学生の頃から、片付けが苦手で、何度注意されても忘れ物がなくならなかった。高校卒業後、和裁の学校に通い、生地店や食品加工工場、生命保険会社など6社ほどで働いたが、仕事はうまくいかない。発注数を間違える、作業に時間がかかる、担当業務が変わるとついていけない-。どこも半年から5年ほどで辞めた。先の見通しを立てるのが苦手で、高額商品を買ってしまい、借金はこの時200万円に膨らんでいた。役場にはその整理を相談しに来ていた。

 対応した職員の勧めで専門医を受診すると、アスペルガー症候群と注意欠陥多動性障害(ADHD)と診断された。「やっぱりか」。愛さんはすんなり受け入れた。「(仕事が続かない)原因が分かってよかった。気が楽になった」

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 単純労働や職人的な仕事が減った今の日本では、高いコミュニケーション能力や複雑な判断力を要する仕事が求人の多くを占める。対人関係を築くのが苦手な人が労働市場の競争を勝ち抜くのは難しく、障害に気付かず失敗を重ねた人は、自尊心を削り取られていく。愛さんも過去の体験が心の傷となり、今は働いていない。

 生活困窮者自立支援法に基づき、全国の自治体に開設された相談窓口には、外見からは分かりにくい障害がある人を、福祉の窓口につなぐ役割もある。

 「周囲が障害に早期に気付き、仕事の優先順位をつける、指示を具体的に出すといった工夫をすれば、就労が継続できるケースも増えてくる」。福岡市発達障がい者支援センターの前所長で今は相談員を務める緒方よしみさん(61)は言う。

 「人相手の仕事は苦手なのでパソコンを使う仕事が向いているのかなと思う」。愛さんは最近、そんなふうに考えるようになった。ウェブデザインを習える学校のことが少し気になる。

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 【ワードBOX】日本の障害者数

 16年版障害者白書によると、身体、知的、精神障害のある人は国民の6・7%に相当する約860万人と推計される。このうち各種障害者手帳の取得者は計約706万6千人で、残りの人は福祉サービスの枠外にいる可能性がある。


=2016/12/08付 西日本新聞朝刊=

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